26 接近戦の行方
俺は普段の数倍のスピードで疾走して間合いを詰める。
【突進】は爆発的な加速によって、一気に至近距離まで敵に接近するスキルだ。
スピードが上がるのは短時間で、加速の効果はすぐに切れてしまう。
だから連発したり、長時間のハイスピードバトルを行うことはできない。
あくまでも『距離を詰める』『勢いをつけた攻撃を加える』といった限定的な用途にのみ使えるスキルである。
ただし――他のスキルを組み合わせれば多彩な攻撃が可能だ。
俺は【サイクロミノタウロス】の予測を超えるほどの加速力で一気に肉薄し、奴の弱点を探るべく【集中】する。
すると……やつの腹部に赤い二重丸が浮かび上がる。
「見えた!」
ここは完全に俺の間合いだ。
この距離なら奴が斧を繰り出すより、俺のスキルの方が速い。
そして奴の弱点はすでに見切っている。
「終わりだ――!」
ぐおおおおおんっ!
その、瞬間。
「えっ……!?」
それは偶然か、それとも奴の作戦だったのか。
【サイクロミノタウロス】は手にした斧を、思いっきり投げつけた。
俺に向かって――ではない。
地面に倒れている無防備なミラに向かって、だ。
「なっ!?」
俺は一瞬、思考がフリーズした。
何をしているんだ、こいつは!?
どうして俺じゃなく、もう戦闘不能のミラの方を狙った!?
「――ちっ!」
考えている暇はない。
俺はその場から全力で後ろに向かって【突進】する。
「ミラっ……!」
スライディングして彼女を抱え、そのままの勢いで地面を滑る。
ざんっ!
次の瞬間、ミラがいた場所に巨大な斧が突き立った。
俺がミラと一緒に移動しなければ、彼女は真っ二つだっただろう。
「お前……!」
ぐっぐっぐ。
【サイクロミノタウロス】は体を揺らし、まるで笑っているような仕草を見せた。
いや……笑っているんだ。
最初からこいつは、俺がミラを助けるために自分から離れるだろうことを計算して、斧を投げた――。
俺は奴をにらむ。
どうする――?
頭の中をフル回転させた。
短期決戦を狙ったものの、現状ではまだ【サイクロミノタウロス】は大したダメージを受けていない。
有効な攻撃方法が見つからないので、まだ戦いは長引くだろう。
かといって、ミラを放っておいたら、どんどん危険な状態になっていく――。
「……ちっ」
俺はミラを背負い、走り出した。
悔しいけど、ここはいったん離脱だ。
まずミラを治療し、それから再戦を挑むしかない。
クエスト受注からの討伐期限は一週間に設定されているから、まだ時間的な余裕はある。
ここは態勢を立て直すときだ――。
俺は町に戻ると、最寄りの神殿に寄った。
ゲームでは呪いや毒などの解除を神殿でしてもらうんだけど、【治癒】をしてもらうこともできる。
実際には【治癒】の力を持つパーティメンバーがいれば、このサービスを使う機会はほとんどないんだけど――。
今回の俺たちのパーティに治癒魔法を使える者がいないため、ありがたいサービスだった。
さっそく治癒を頼んだが、高額の寄付金が必要らしかった。
けれど、今から金を稼ぐ時間なんてない。
「その……俺たちA級冒険者パーティなんだけど、今は事情があって手持ちのお金がなくて……次の報酬で必ず返すから治癒してもらうわけには……」
交渉は苦手だけど、今はミラの命がかかっている。
俺は必死で受付の女神官にたのんだ。
「うーん……本来なら寄付は一括払いですが、あなたたちは将来有望な冒険者だと聞いています。確か認定試験でいきなり全員がA級認定されたんですよね?」
彼女が言った。
「え、ええ……よくご存じで」
「有名ですよ。ギルドの評判はこちらにも流れてきますし」
微笑む女神官。
「いいでしょう。今回は特別に寄付は後払いということで。あなたがたのような有力な冒険者とは、当神殿もつながりを持っておきたいですからね」
そういうもんなんだ……。
まあ、どういう理由にせよ診てもらえるのはありがたい。
「では、お願いします――」
女神官の治癒魔法のおかげでミラは一命をとりとめ、折れた手足も元通りになった。
二日ほど意識不明で、神殿内に病室に寝かされていたんだけど、三日目に意識が戻ったと聞かされ、俺は病室に向かった。
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