25 サイクロミノタウロス討伐2
サイクロミノタウロス――。
その外観は牛頭の巨人【ミノタウロス】をベースに、頭部にはもう一本、ドリルのような角が、胸部には巨大な単眼が付いている。
頭部のドリル角からは拡散魔力砲を放ち、胸の目は麻痺や毒の効果がある光線を放つことができる。
そしてパワーと耐久力はAランク。
正攻法でも搦め手でも能力が高い強敵である。
とはいえ、俺とミラのコンビなら十分に勝算はある。
スピードが遅いので、俺たち二人がすばしっこく動き回り、奴に攻撃の狙いを絞らせない――という展開にしたいところだ。
逆に、早々にどっちかが大きなダメージを受けて、動けなくなると、とたんに難易度は跳ね上がる。
「とにかく、ダメージを受けずにじわじわと奴を削っていく……事前の打ち合わせ通りで行くぞ」
俺は剣を抜いた。
「へへ、腕が鳴るぜ」
隣でミラが二刀を構える。
「左右から同時に攻めよう。俺は右、君は――」
「へっ! まず俺が先陣を切るぜ!」
言うなり、ミラは一人で飛び出した。
「あ! 二人同時の方がいいって――」
「うるせー! 早い者勝ちだ!」
言って、ミラが斬りかかる。
ざしゅっ!
二本の剣が交差し、【サイクロミノタウロス】の肩口を切り裂いた。
「――!?」
が、そこでミラの動きが止まる。
「ぬ、抜けない……っ!?」
ミラが敵の体表を切り裂いた剣は、その裂け目に挟まれてガッチリ固定されていた。
「このっ……」
押しても引いてもビクとも動かない双剣。
「――邪魔だ」
かっ!
胸の単眼から放たれた光がミラを直撃した。
「うっ、体が……!?」
どうやら【麻痺】させられたらしい。
「まずい――」
俺は慌ててフォローに向かうが、彼女までの距離が遠すぎる!
ぶんっ!
【サイクロミノタウロス】が軽く振るった右腕が、【麻痺】で身動きの取れないミラを吹き飛ばす。
「がっ……!?」
そのまま地面に叩きつけられ、ミラは失神したようだ。
「ミラっ……!」
俺はゾッとなった。
右腕と左足があさっての方向に折れ曲がっている。
どうやら死んではいないようだけど、重傷だ。
「一瞬で戦闘不能か――」
俺はあらためて奴の巨体を見上げた。
とにかく異常なパワーだった。
さすがにあの第五騎士団長ルインのゴーレム態ほどじゃないけど、一発食らったら俺の体なんてグシャグシャになるだろう。
「ミラ……」
地面に横たわり、ぴくぴくと痙攣している彼女を見た。
勝ち気に逸ったのが、裏目に出たか……。
「待ってろ。奴を倒して、すぐ手当てしてやる」
今は応急手当すらできない。
少しでも隙を見せれば、俺もやられる――。
とはいえ、このままミラを放っておけば、命にかかわるだろう。
「すぐに終わらせる!」
俺は地面を蹴って【突進】した。
距離を詰めて【上段斬り】を放つ。
剣を振り下ろす途中、その勢いを乗せて、さらに【投擲】を発動。
そして【集中】して精密なコントロールを実現する。
俺が異空間闘技場の【阿修羅】戦で会得した、四つのスキルの連係技――。
「【バーストアロー】!}
ごおおおおおっ!
風を切り裂き、一直線に飛んで行った剣は、砲弾のごとき勢いで【サイクロミノタウロス】の胸元に突き刺さった。
ぐおおおおおおおおおおおんっ!
苦鳴を上げるモンスター。
けれど、
「致命傷にはならない、か」
俺は苦い顔をした。
【阿修羅】は比較的HPが低いタイプの敵だったみたいで、この技が決め手になった。
けれど、HPが高いルインやこの【サイクロミノタウロス】に対しては、手傷こそ与えられるものの致命的なダメージを与えるには至らないようだ。
やはり、ここはもっと破壊力の高い技を叩きこみたい。
「連係技じゃなく基本スキルで攻めていくか……」
さあ、仕切り直しだ。
さっきの剣は奴の胸に突き刺さったままだ。
すぐに回収はできないから俺は予備の剣を抜き、ふたたび【突進】する――。
があっ!
その瞬間、【サイクロミノタウロス】が右腕を振り回した。
その手に魔力が集まり、巨大な斧が形成される。
「まずい――っ!」
俺はとっさに左に跳んだ。
ごうっ!
一秒前まで俺がいた地点を【サイクロミノタウロス】の斧が通過していく。
「あんなの……かすっただけで真っ二つにされるぞ……!」
ゾッとなった。
やはりパワーの差は圧倒的だ。
今の攻撃を受けるのは無理だろう。
つまり……うかつに距離を詰めて接近戦を挑むのは、危険が大きいってことだ。
かといって、遠距離からの【バーストアロー】は連発できない。
当たるたびに剣が突き刺さり、即座に回収することができないからだ。
というか、予備の剣はこれ一本。
この剣も手元からなくなったら、俺は丸腰である。
どうする――。
俺は逡巡する。
【バーストアロー】を連打することはできないけど、【投擲】スキルを使って、たとえば石などを弾丸のように撃ち出すことはできる。
その繰り返しでジワジワとダメージを蓄積させていくか……?
「……いや、駄目だ。仮に上手く行ったとしても時間がかかりすぎる。ミラが持たない――」
やはり短期決戦を挑むしかない。
「なら――リスクを承知で接近戦か」
ごくり。
俺は息を飲み、奴をにらんだ。
ぐおおおおおおんっ!
【サイクロミノタウロス】が咆哮する。
ヴ……ンッ。
左手にも光が集まり、右手と同じく魔力の斧が形成された。
「左右二本――」
ますます相手の攻撃力が上がったわけだ。
攻撃の手数も二倍……どうする?
俺はあらためて自問する。
「――いくしかない」
こうしている間にもミラの容態はどんどん悪化していくだろう。
早くケリをつけないと。
「一か八かだ!」
俺は剣を手に【突進】した。
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