19 課題と、さらなる成長に向けて
「真っ正面から突っこむだけでは勝てねーぞ!」
ルインが右の拳を振るう。
衝撃波を伴ったパンチ――【衝撃拳】。
シンプルだが、恐るべき威力を誇る攻撃スキルだ。
「【集中】」
俺はその拳をじっくりと見つめる。
【集中】のおかげで、拳の軌跡がスローモーションに見え、さらにその一点んに黄色い二重丸が見えた。
ここを【弾く】ことで相手の攻撃の軌道を逸らすことができる――。
ヴンッ!
その瞬間、黄色い二重丸が消え失せた。
奴が攻撃の軌道を変えたのだ。
【弾く】に対抗するテクニック――ただ、これは前回の戦いでもやられたことだ。
俺はあらためて奴の拳を、その軌道を見つめる。
と、
「甘いぞ!」
側面から左の拳が繰り出されてきた。
「同時攻撃――?」
さすがに左右同時に見切ることはできない。
「くっ……」
俺は慌ててバックステップして攻撃を避ける。
ごうっ!
が、衝撃波を避けきれずに巻き込まれ、吹き飛ばされた。
「がはっ……」
そのまま地面に叩きつけられる。
「やはりな」
ルインはゴーレムから青年の姿に戻り、言った。
「お前のその技――【スカーレットブレイク】は五つのスキルを正確に連動させて放つ技だ。けど、途中のスキルが失敗すれば、当然発動できない」
「コンボ失敗、ってことか」
うなだれる俺。
【スカーレットブレイク】は俺にとって切り札という位置づけだっただけに、あっさり破られたのはショックが大きかった。
「連係技の宿命だ。連係に使うスキルが増えれば増えるだけ、各スキルの失敗率に伴って、その技自体の失敗率も上がってしまう」
「確かに……」
「今のお前では、まだその技は成功率が低いようだな」
ルインが言った。
「【バーストアロー】……だったか? あっちは相手の攻撃を見切るわけじゃなく、自分から主体的に攻撃できる分、失敗率は高くないようだが、今のやつは難易度が相当高いぞ」
「うーん……」
俺はうなった。
「前回の戦いで発動できたのは、かなり運がよかったってことか……」
「まあ、お前の勝負強さが招いた勝利だったことは認める。が、毎回上手く行くとはかぎらねーってことさ」
「……了解だ」
俺はルインを見つめた。
「ありがとう。いろいろと学ばせてもらった」
「はは、お前にはもっと強くなってもらいたいからな」
その笑顔は、まるで無邪気な子どもみたいだった。
「ルイン、ありがとう。ゼルくんに稽古をつけてくれて」
ラヴィニア隊長が一礼した。
「はは、俺が勝手にやったことだ」
と、ルイン。
「ゼルは確かに強い……が、まだまだ隙がある。しっかり鍛えてやってくれよ」
「ええ。私も、私にできることをするわ」
ラヴィニア隊長が微笑む。
「彼ならきっと――私たちより強くなれる」
「大したほれ込みようだな。それとも、本当に惚れちまったか? 士官学校時代は男関係の噂を一切聞かなかった超堅物のお前が」
「は、はあっ? 何言ってるのよ! 私は上司として――そして仲間として彼の力になりたいだけよ!」
ラヴィニア隊長が怒ったように叫んだ。
……男関係の噂が一切なかった、か。
それを聞いて、妙にホッとしている俺がいる。
「……こいつ、ずーっとフリーだと思うから、がんばれよ」
ルインが俺に耳打ちする。
「っ……!」
俺は思わず頬を熱くした。
「悪い悪い。つい要らないこと言っちまうのは、俺の悪い癖だ」
ルインがラヴィニア隊長に頭を下げる。
「まったく、もう……」
ラヴィニア隊長は口を尖らせている。
普段クールな隊長がそういう仕草をすると、やけに可愛いな。
「ちょっと、何笑ってるのよ、ゼルくん」
ラヴィニア隊長に軽くにらまれてしまった。
「あ、そうそう、一つ話しておくことがあるの」
ルインが去った後、ラヴィニア隊長が俺に言った。
「二週間後に人間界での演習が行われるわ。上層部の方から各隊で精鋭を選抜したんだけど、ゼルくんもそのメンバーに選ばれたの」
「俺が?」
驚いてたずねる。
「人間界に行くってことですか?」
「ええ。うちの隊からは他にミラさんとバロールくん、それからレキさんも行くことになるわ」
と、ラヴィニア隊長。
ミラとバロールの二人は中級魔族【ボランザ】討伐任務でも一緒だったけど、レキのことはよく知らない。
名前はさすがに知っているけど、ほとんど話したことがないな。
「いずれ人間界との戦争が起きるはず……その前に向こうの文化や地理なんかに慣れるための潜入任務ね。もちろん拒否権もあるけど――」
「行きます」
俺は即答した。
俺が人間界へ行くことを決めた理由は一つだ。
この世界はゲームの『ラグナロク・ゼロ(通称ロクゼロ)』にそっくりだ。
で、この『ロクゼロ』にはキャラクターを成長させるアイテムが登場する。
『パワーカプセル』や『スピードカプセル』、『マジックカプセル』など各パラメータを成長させることができるカプセルだ。
で、そいつは特定のダンジョンで手に入れることができる。
つまり人間界に行って、そのダンジョンに入れば、俺も成長アイテムを得られるかもしれない、ということだ。
最近はもっぱら技を磨くことに特化していたけど、俺自身の基本的なパラメータが上昇すれば、当然スキルの威力や精度などもアップする。
そう、人間界潜入任務は、俺がさらなるパワーアップをするためのチャンスなのだ。
「人間界は初めてよね? 無茶はしないでね」
「はい。他の三人と連携して任務をやり遂げます」
言って俺はラヴィニア隊長に微笑む。
「じゃあ、がんばってきてね。戻ってきたら――二人で飲みに行きましょ」
「えっ」
「あ、ご、ごめんなさい、つい……誘ってしまって」
ラヴィニア隊長がハッとしたような顔をした。
「この間の食事は途中でルインが邪魔してきたし……」
「そうですね。じゃあ、戻ってきたら一緒に」
俺はにっこりと言った。
うん、俄然モチベが高まってきたぞ。
必ず任務をやり遂げ、成長アイテムも手に入れて――その後はラヴィニア隊長と飲みに行くんだ!
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