20 人間界へ出立

 次の日、俺は3番隊のメンバーとともに人間界に行くことになった。


 人間界に行くのは全部で五つの隊だ。


 それぞれが四人ずつの選抜メンバーで構成され、別々の地域に潜入する。


 俺は3番隊の他の選抜メンバーたちと集合していた。


「へへ、人間界か……俺、初めてなんだよな」


 ミラが張り切っている。


 ショートヘアにした銀髪に勝ち気そうな顔立ちをした美少女だ。


 露出の多い黒衣のため、褐色の肌があらわになっていた。


 左右の腰に一本ずつ剣を下げた二刀流スタイルである。


「私は第3部隊に在籍したころに何度か行ったことがある」


 と、バロール。


「お土産を頼まれてるの……いいお店教えて」

「いや、観光旅行じゃないからな」

「私も初めて……」


 そう言ったのはボーッとした怠惰な雰囲気の美少女だ。


 彼女とは、ほとんど会話したことがない。


「レキ・エヴリット、です。種族は【カオスメイジ】です。どうも」


 俺を見て、ぺこりと頭を下げる彼女。


 ボーッとした怠惰な雰囲気の美少女だ。


「俺はゼル・スターク。よろしくな」


 俺は名乗り返した。


 カオスメイジって、確か以前に闘技場で戦ったダークメイジの上位種だったはずだ。


 分類としては高位魔族に属する。


「隊長以外にも高位魔族っていたんだ」

「3番隊では、ラヴィニア隊長以外の高位魔族は私だけだと聞いています……」


 レキが言った。


「ふん、中位だろうと高位だろうと関係ねー。エースは俺だ」


 あいかわらずエースにこだわってるんだな、ミラ。


 ちなみにミラは『ソニックブレイダー』という種族だ。


 クラスは中位魔族で、名前から連想される通り俺の『デモンブレイダー』の上位種である。


 ちなみに最上位種になると『ルーンブレイダー』といって魔法剣士になるらしい。


 俺は魔法を使えないので、うらやましい。


「ともあれ、この四人でチームを組むんだ。きっちり連携して成果を出そう」


 バロールが言った。


「ちなみに俺は人間界潜入任務は30回目だ。もともと上位の部隊にいたからな」

「30回!?」

「人間界のことなら何でも聞いてくれ」


 おお、頼もしい。


 俺は前世は人間とはいえ、こっちの世界ではずっと魔界で育ったから、人間界の知識は全然ない。




「では3番隊の選抜メンバー四人……ミラ・ソードウェイ、バロール・クラウディス、レキ・エヴリット、ゼル・スタークの転送を開始します」


 軍から派遣されている魔導技官が言った。


「人間界に行くには、異空間を通ることになります。目の前の門は、その異空間に通じています」


 と、前方を指し示す魔導技官。


 そこには真っ黒い鳥居に似た形の門がある。


 高さは十メートルくらいだろうか。


「異空間通路生成魔導装置――【冥導門めいどうもん】。定められたルートを通らないと、時空の狭間に迷い込んで二度と戻って来られなくなりますので、ご注意ください」

「怖いことをサラッと言うな……」


 俺はゾッとなった。


「全員で手をつないでおいた方がいいだろう」


 と、バロール。


「絶対に離すなよ。俺は以前に異空間通路の外に放り出された奴を見たことがある。当然、二度と戻ってこなかった」

「おいおい、シャレにならねーぜ、それ」

「絶対……手を握ったままで……」


 ミラとレキが言った。


「じゃあ、いいですね。【冥導門】――開門!」


 魔導技官の呪言とともに、俺たちは黒い門に吸い込まれた。


 ヴヴヴヴヴ……ンッ!


 内部にはまっすぐ一本の道が伸びている。


「移動方法はこの道を踏み外さないように歩くだけです。気を抜かずに確実に歩行してください」


 魔導技官が言った。


「うぉっ……!? けっこう風が強えーな」


 と、ミラがよろめく。


「慎重にな、ミラ」


 バロールが注意する。


「さっきも言ったが、踏み外すと二度と戻れない」

「お、おう、分かってるぜ」


 ミラは心なしか顔を青ざめさせたようだ。


 実際、俺も緊張している。


 普通に歩けば、まず踏み外さないくらい道幅は広い。


 とはいえ、風が強くて、よろめきながら歩くことになるし、油断はできない。


 と、そのときだった。


 ごうっ!


 突風が吹きつけてきて、俺はバランスを崩した。


「う、うわわ……!?」

「門の内部に風が!? どうして――」


 驚く俺と魔導技官の声が重なる。


 バランスを崩した俺は、道の端までよろめく。


 まずい、このまま踏み外すと時空の狭間に落ちて、戻れなくなる……!


 ごうううっ!


 そこへ、さらに突風が吹きつけてくる。


 俺はますますバランスを崩し――、


「【修復】」


 涼やかな声が響いた。


 ぴたりと突風が止む。


「おっと……」


 俺はなんとか体勢を立て直すことができた。


「異空間通路の一部が破損していましたので、私が直しておきました」


 レキだ。


 頼りになるな、この子。


「突風がやんだのも君が異空間通路を直してくれたからなのか? 助かったよ。ありがとう」


 と、俺はレキに礼を言った。


「時空間の狭間に落ちなくてよかったです」


 レキが淡々と告げる。


「落ちたら、探索魔法でも見つけ出すのは無理ですから」

「お、おう……やっぱり落ちたら絶望的なんだな」


 あらためてゾッとする。


 本当に落ちなくてよかった。


「大したものだ、レキ。異空間通路を直してくれて、俺からも感謝するよ」


 と、バロール。


「いえ、私は二流の魔術師ですから」


 レキが首を振った。


「そんなことはないだろう。異空間通路の修復なんて誰にでもできることじゃない。むしろ超一流じゃないか?」

「二流です。私イズ二流」


 ずいっと顔を前に出し、レキが主張する。


「そ、そうか……? 君の自己評価はそうなんだな……?」


 なんだか、この子も癖のある子みたいだなぁ……。


「おいおい、もっと自分に自信を持てよ。今、お前はすごい魔法を使ったじゃねーか」


 と、ミラ。


「俺なんて、常に自信に満ちあふれてるぜ?」

「私は……自信がない、です」


 レキが首を振った。


「超一流になんて、なれない……」




 その後、数時間の道程を経て、俺たちは門を抜けた。


「ここが人間界か……」


 前世では人間の世界に住んでいた俺だけど、この世界に転生してからはずっと魔界暮らしだ。


 だから、初めての人間界来訪ということになる。


 魔界に比べると太陽の光が強く、空も明るい。


 うん、落ち着く。


 常に曇天で日の光が薄い魔界にいると、なんとも落ち着かない気分になるからな。


 なんていうか――『故郷』に帰って来たような気分だった。


 もちろん、ここは『ロクゼロ』における人間界であって、俺にとって故郷という認識が強い場所――現代日本ではない。


 それでもやっぱり人間たちが中心になって暮らしている世界であることに違いはない。


 魔界にいるときは、どうしても感じずにはいられない『自分が異邦人だ』という感覚――。


 そこから解放された気分だ。


「人間……なんだよな、俺」


 ふと考えてみる。


 もう何度考えたかも分からない『自己』というものへの定義。


 俺の精神は人間時代のままだ。


 けど、この体はまぎれもなく魔族のもの。


 身体能力も違うし、寿命もたぶん違う。


 そして、周囲にいる者たちは人間ではなく魔族だ。


「だから、今の俺にとっての『同胞』は――」


 魔族だ。




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