18 一か月後、俺は成長を重ねる

 それから一か月が経った。


 俺は隊の演習をこなす日々だ。


 個人的なトレーニングも地道にやっているけど、こっちは大した成果はない。


 やっぱり異空間闘技場のような特殊ステージがないと、大幅なパワーアップは難しい。


 そんなある日のこと。


「今日もトレーニングに精が出るわね、ゼルくん」

「なんか習慣みたいになっちゃって」

「立派だと思うわ」


 俺たちは微笑み合った。


 一か月前、あのルインとの決闘を経て、俺とラヴィニア隊長の距離は少し縮まった気がする。


 別にデートしたり、付き合うようになったりとか、そういう進展はないんだけど――。


「でも、あまり無理はしないでね。君はすぐに無茶するタイプだから」

「そんなことないですよ。ちゃんと自分のペースは把握しています」

「ルインに挑むような人に言われても説得力がないのよ」


 ラヴィニア隊長は冗談っぽく『めっ』とした。


「えへへ」


 しまった、ついにやけてしまった。


 ラヴィニア隊長とこういう軽口のやり取りをできるだけで嬉しい。


「お、さらに鍛え上げたみてーだな」


 と、長身の青年が近づいて来た。


「お前……」


 赤い髪の野性的な美貌の青年。


「ルイン……?」


 そう、一月前、俺と激闘を繰り広げた第五騎士団長ルインだ。


 他の隊員たちが驚いたようにこちらを見ている。


 まあ、ルインは魔界トップクラスの実力者の一人だし、そりゃみんな驚くよな。


「どれ、一つ俺が見てやろう」

「えっ」

「お前の実力だと練習相手にも苦労するんじゃないか? この隊の魔族たちの中で、お前の相手をまともに務められる者が何人いる?」


 と、ルイン。


「それは……」


 隊員はその大半が中級や下級魔族だ。


 けれど、すでに高位魔族とも渡り合ったことがある俺にとって、十分な相手ではなくなりつつあった。


 実際、全力でやるとケガをさせてしまいかねないと思って、手を抜くこともある。


「お前が相手をしてくれるなら、ありがたいけど――」

「俺としてもお前の今の実力を確認しておきたいからな」

「スカウトは禁止だからね、ルイン」


 と、ラヴィニア隊長が口出しした。


「分かっている。というか、すでにこいつには振られているからな。まったく……」


 ルインは少し拗ねたような素振りだ。


「まあ、こいつのような戦士は魔界全体にとっての宝だ。鍛錬の協力をしてやるのも幹部の務めだな」

「感謝するわ、ルイン」

「お前の傷が回復したなら、俺よりもお前がこいつの相手をしてやればいいが……当面は無理だろうしな」

「えっ」


 俺は思わずルインを、そしてラヴィニア隊長を見た。


「隊長の傷? なんの話だ」

「なんだ、聞いていないのか」


 ルインが呆れたような顔をした。


「それともラヴィニアが積極的に話さなかったのか――まあいい」

「ラヴィニア隊長は怪我をしているのか?」


 俺は心配になってたずねた。


「怪我とは少し違う」

「……後で話すわ」


 ラヴィニア隊長がルインの言葉を遮るように言った。


「せっかくルインが修行の相手をしてくれるって言うんだからその言葉に甘えたらどう?」

「……分かりました、隊長」


 俺はうなずき、ルインと向き直った。


「修行に付き合ってほしい」




 俺は【オリハルコンゴーレム】に変身したルインと対峙した。


 最強の魔導金属であるオリハルコンで全身が形成されたルインには、生半可な攻撃は通じない。


 下手な攻撃をすれば、剣の方が壊れてしまう。


 しかも奴は防御力だけじゃなく、攻撃力も圧倒的である。


 受けに回ればやられる。

 攻撃に出ても通じない。


 攻守を兼ね備えた最強レベルの相手だ――。


「さあ、仕掛けてこい」

「……いくぞ!」


 俺は【突進】から【上段斬り】につなげ、二段階に加速した勢いそのままに剣を【投擲】した。


 コントロールを定めるため、【集中】も併せて発動している。


 異空間闘技場の中ボス【阿修羅】との戦いで使った、四連コンボだ。


【バーストアロー】。


 俺はこのコンボ技をそう名付けた。


『四連コンボ』じゃ味気ないし、他にも複数スキルのコンビネーションを編み出したときに分かりづらいからな。


 がきんっ!


 ルインは超高速で飛んでくる剣を、しかし、右腕を振り回して弾き飛ばした。


「さすがに、これ一発では倒せないか」

「くっ……前より威力も精度も上がっているな」


 ルインがうめく。


 俺の一撃は奴の腕にわずかな傷をつけていた。


 とはいえ、かすり傷だ。


「【阿修羅】戦では決め技になったこいつが、ルインにはこの程度の傷しか与えられないのか……」


 俺はあらためて戦慄した。


 やっぱりルインは強い。


 おそるべき剛力と耐久力、防御力を兼ね備えた魔族だ。


「これが騎士団長の力、か」

「どうした? お前にはまだ『上』があるだろう?」


 ルインがニヤリとした。


「あのとき俺を後退させた、あの技で来い。お前の、最高の技で!」

「――ああ。いくぞ!」


 俺は気を取り直してダッシュした。


【突進】のスキルだ。


 ここからさらに四つのスキルを積み重ね、今度は大ダメージを与えてやる――。





****

〇読んでくださった方へのお願いm(_ _)m

☆☆☆をポチっと押して★★★にして応援していただけると、とても嬉しいです。

今後の執筆のモチベーションにもつながりますので、ぜひ応援よろしくお願いします~!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る