13 ラヴィニア隊長と食事デート
ラヴィニア隊長に食事に誘われてしまった。
で、俺は今、その約束の店に向かっている最中だ。
「どうして誘ってくれたんだろう?」
不思議に思いつつも、俺の足取りは自然と弾んでいた。
これって……要するにデートだよな?
デートって解釈でいいよな?
前世では全然モテなかったから、ラヴィニア隊長からの誘いにどういう意味があるのか、汲み取ることが難しい。
そもそもただ食事をしたいのか、それとも何か大切な話でもあるのか、あるいは悩み相談とか……。
「一番考えられるのは、異空間闘技場のことか……」
ラヴィニア隊長には、かつて自分の騎士団の部下をたくさん失った過去があり、彼女はそのことに強く責任を感じている。
実際にはラヴィニア隊長一人が責任を負うことではないと思うけれど――。
ともかく、彼女はその事件がきっかけで、自身が強くなりたいという思いを強くしたらしい。
で、その手立てとなりそうな異空間闘技場について興味を持っている。
俺もそこに自由自在に行けるわけじゃないけど。ラヴィニア隊長は多分その辺りを詳しく聞きたいんじゃないだろうか?
まあ、一般的なデートとは違うよな、これって。
ただの――相談だ。
そう考えると、少しテンションが下がってしまう。
「いや、でもラヴィニア隊長にとっては大事な話だもんな。うん、ちゃんと答えなきゃ」
すぐに気持ちを建て直したところで、俺は店にたどり着いた。
店はラヴィニア隊長の名前で予約してあるという。
店内に入ると、かなりの高級店みたいだった。
「なんか緊張するな、こういう店……」
店の人に案内され、俺は予約席までやって来た。
そこにはすでにラヴィニア隊長の姿が――。
「うわ、私服だ……!」
俺は思わず声に出してしまった。
いつもの騎士服姿も凛々しくて美人なんだけど、私服姿の隊長は清楚可憐な乙女という感じで、普段とはまた違う魅力を漂わせていた。
こうして見つめるだけでドキドキしてくる。
「わざわざ呼び立ててごめんなさい」
席に着くと、ラヴィニア隊長が一礼した。
「いえ、そんな」
俺は慌てて手を振る。
「今日は君に話したいことがあって、来てもらったの。ちょっと込み入った話になるかもしれないし、二人だけの方がいいかと思って……」
と、ラヴィニア隊長。
「あ、まず料理を頼んだ方がいいわよね? 好きなメニューを注文して。お金は私持ちだから」
「そんな。俺も払いますよ」
「私が誘ったんだから、私が払うわ。それに私は君の上司よ」
「でも――」
初デートで相手におごってもらうのは……ラヴィニア隊長の心証を悪くするだろうか?
いくら向こうから『おごる』と言っているとはいえ――。
「お願いします。払わせてください」
俺は譲らず一礼した。
こっちで払っておけば、とりあえず無難だろう。
うう、デート慣れしてないから最適解が全然わからん……。
「? 随分とこだわるのね。まあ、君の気が済むなら……割り勘でいいかしら」
「は、はい、それで……」
割り勘ということで、食事デートが始まった。
間近で見ると一段と綺麗だな、ラヴィニア隊長――。
「? どうかしたの、ゼルくん?」
ラヴィニア隊長が小首をかしげた。
「さっきから私のことジッと見てない?」
「っ……! い、いえ、なんでもないです!」
あなたに見とれてました、なんて言えるわけがない。
いや、むしろそれくらいのことをサラッと言った方が好印象なんだろうか?
うーん、わからん……。
俺には恋愛の経験値が足りなさすぎる……!
「何か悩みでもあるのかしら……?」
ラヴィニア隊長はキョトンとした顔だ。
「えっと、私の方から話してもいいかしら」
「ど、どうぞ」
俺は慌てて促した。
そうだ、もともと今回のことはラヴィニア隊長が俺に対して話があるみたいだし――。
まずそれを聞かねば。
「この間、二人の騎士団長と話したの。私が騎士団長だったころの知り合いよ」
そう、ラヴィニアさんは以前は部隊長クラスではなく、そのずっと上の騎士団長クラス――それも魔界最強と謳われた一人だったらしい。
一兵士の俺からすれば、騎士団長クラスは雲の上って感じの存在だ。
「そこで君の話が出たのよ、ゼルくん」
「えっ、俺?」
「二人は君に興味を示していたわ。自分の騎士団にスカウトしたいとも言っていた。私は……その場では話を断ってしまったの」
言って、ラヴィニア隊長は深々と頭を下げた。
「ごめんなさい」
「い、いえ、そんな」
俺は慌てて両手を振った。
「頭を上げてください。どのみち、俺は今の部隊が気に入ってますし、他所に行きたいとは思いません」
何よりも、この部隊にはラヴィニア隊長がいるしな。
「私の勝手な判断だったわ。すごく反省しているの。本来なら話を持ち帰って、君に伝えるべきだったのに」
普段からクールで颯爽としているラヴィニア隊長が、珍しく凹んでいる様子だった。
「君の成長があまりにも目ざましくて……どんどん強くなる君を、自分の元に置いておきたいと思ってしまったのよ。私情を挟むなんて、隊長失格よ」
「そんなことありません! 失格だなんて……俺、ラヴィニア隊長がそんなふうに思ってくれて嬉しいです」
俺は真っ向から反論した。
「いつも隊員のことを一番に思ってくれているじゃないですか。ラヴィニア隊長は立派な隊長ですよ」
「ゼルくん……」
ラヴィニア隊長が俺を見つめた。
「……ありがとう」
その微笑は少し照れたような、それでいていつもの物憂げな雰囲気も混じった複雑な表情だった。
と、
「ふん、二人で逢瀬とは……軟弱者め」
突然、背後から怒りを押し殺したような声が響いた。
振り返ると、そこには長身の青年が立っている。
赤い髪をした野性的な雰囲気の美しい青年――。
「ルイン……!」
ラヴィニア隊長がつぶやいた。
「ルイン?」
ん、聞いたことがあるぞ。
そうだ、ゲームに登場する魔王軍の強敵の一人!
第五騎士団長ルイン・バルガス――。
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