14 第五騎士団長ルイン
「俺やブランシェの勧誘を断ったのは、てっきり部下を大切にする心情からかと思ったが……単なる色恋か? ええ?」
ルインは怒っているようだった。
「ち、違うわ! そんなんじゃない――」
「なら、こんな店でそいつと二人で話しているのはなんだ? 俺にはお前らが恋仲にしか見えねーぞ?」
「恋仲――」
俺は思わずポーッとなってしまった。
いや、もちろん誤解なんだけど。
でも、そんなふうに言われて悪い気はしない。
と言うか、嬉しい。
「にやけやがって……やはり恋仲か」
「ち、違うわよ! ねえ、ゼルくん」
「恋仲……ふひひ」
「ち、ちょっと、ゼルくん!?」
ラヴィニア隊長が慌てた様子を見せる。
「あ……す、すみません、つい浸ってしまって」
俺は妄想モードからとりあえず脱した。
「お前はそうやって軽薄な方向に流れ、表舞台から逃げるんだな。優れた力を持ちながら……小さな部隊の隊長に収まる器ではないってのに」
ルインが歯噛みしている。
「かつて騎士団を壊滅させたことをいつまでも気に病むとは――情けない奴め。この俺でさえ震えさせた、あの強いお前はどこにいった!」
「……ちょっと待て。それは言い過ぎだろ!」
俺は思わず前に出た。
ラヴィニア隊長の過去については前に聞かせてもらった。
彼女が団長を務めていた騎士団が【
それが理由で自ら降格を申し出て、今は部隊長をやっていること。
ラヴィニア隊長にとって、それはトラウマともいえる心の傷だろう。
「そんな心の傷をほじくり返すなんて許さない」
「許さないならどうだというのだ、小僧」
ルインがふんと鼻を鳴らした。
「ゼル・スターク――お前のことは買っていたんだが……残念だぜ。こんな女の前でデレデレと鼻の下を伸ばすばかりとは――とんだ期待外れだな」
「別に俺を悪く言ってもいいけど、隊長のことを悪く言うな」
俺はもう一度ルインを糾弾した。
「ちゃんと今の発言を取り消して謝れよ」
「断る」
ルインが傲然と言った。
「謝罪をさせたいなら、力ずくで来たらどうだ」
「何?」
「俺は武人だ。力で言うことを聞かせてみろ」
と、自分の胸を拳でどんと叩くルイン。
「ちょっと、二人ともやめてよ」
ラヴィニア隊長が割って入った。
「やめません」
「やめねーぞ」
俺たちの声がそろった。
「ゼルくん、ルイン――」
「決闘だ、ガキ」
「やってやる、騎士団長」
売り言葉に買い言葉だった。
ルインと決闘することになってしまった。
まあ、正直に言うと、ちょっと怖いけど……。
でもラヴィニア隊長の心の傷をほじくり返すなんて許せない。
「俺が勝って、さっきの発言の取り消しと隊長への謝罪をさせます」
「ゼルくん、そんなことはいいから。決闘はやめて」
ラヴィニア隊長がとりなす。
「嫌です。俺のことはいいけど、ラヴィニア隊長のことを言われたのは……許すわけにはいかない」
「ゼルくん……」
――俺たちは店を出て、場所を移動した。
「ここでいいだろう」
ルインに案内されたのは、繁華街から離れた区画にある広々とした空き地だ。
「いつでもいいぞ。俺に勝てたら、さっきの発言は全面撤回だ。そのうえで土下座でもなんでもして謝罪しよう」
ルインは余裕たっぷりだ。
「どのみち、お前は俺に傷一つつけることができん、そうだな……もして傷一つでも負わせることができたら、お前の勝ちだ」
「……ハンデマッチか」
俺は思わずルインをにらんだ。
「その代わり、俺が勝ったらお前をもらう」
言いながら、俺を見て舌なめずりするルイン。
「何……?」
「俺の騎士団に入ってもらうぞ。これだけのハンデをつけてなお、お前は俺に勝てん。だから俺が鍛え直してやる」
言ってルインはフッと笑った。
こいつ――!
「そのためにわざと挑発したのか」
「ああ」
ニヤリとした笑みを深めるルイン。
「だったら……ますます許せない!」
俺は剣を抜いて突進した。
そんな目的で、ラヴィニア隊長のトラウマをえぐるなんて。
「許してたまるか――!」
「いいだろう。俺を許せないというなら渾身の剣を叩きつけるがいい」
ルインは無造作に立っている。
「どこからでも打ち込んでこい、ってことか?」
「ああ」
「……舐めるなよ」
俺はもともと下級魔族だけど、異空間闘技場で様々なモンスターと、特にあの阿修羅との激闘を潜り抜けて、以前とは比べ物にならない強さを手に入れた。
たとえ相手が魔界最強クラスの騎士団長だからって、負け確定ということはないはずだ。
「俺がお前の発言を取り消させてやる。お前はラヴィニア隊長のことを何も分かってないんだ!」
前傾姿勢を取る俺。
「【集中】【突進】」
どんっ!
一気に最高速まで加速して疾走する。
「隊長は逃げたんじゃない。今も自分の場所で戦ってる。だから――【高速斬撃・六連】!」
あの阿修羅との戦いで習得したスキルを繰り出した。
がきいんっ。
突進から繰り出した斬撃は、ルインの体の表面で止まっていた。
「斬れない――?」
魔力の結界で体を覆っているのか?
――いや、違うぞ。
そうだ、思い出した。
こいつの正体は――。
「自分の場所で戦っているだと?」
ルインが俺をにらんだ。
「ふざけたことを! お前こそ何も分かっていない!」
怒声だった。
「お前は知らんのだ。ラヴィニアのおそるべき強さを。この俺でさえ恐怖を覚えた、絶対的な強さを!」
「ルイン……?」
「そんな強者が部隊長程度でくすぶっているのを――黙って見過ごせるか!」
ルインが振るった拳が突風を巻き起こし、俺を吹き飛ばす。
こいつ――強い!
やはり、騎士団長は伊達じゃない……!
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