10 任務を終えて
「……ふん、やるじゃねーか、ゼル」
ミラはどこか悔しそうだった。
「助けてもらったことには礼を言うぜ。ただこの部隊のエースは俺だからな。そこんところは勘違いするんじゃねーぞ!」
本当に負けん気が強いけど、それが彼女らしさなんだろう。
それにしても、エースの称号にこだわるんだなぁ。
まるで部活動みたいだ。
「まさか、お前がこれほどの力を持っていたとは、な」
バロールが俺を見つめた。
「また俺の序列が下がってしまう……ちっ」
不満げだった。
他の隊員たち――生き残ったのは残念ながら一握りだ――も口々に礼を言ってくれた。
「多くの犠牲が出たけど、それでも全滅しなくてよかった……」
俺はため息をついた。
一緒に来た3番隊のメンバーのうち、ミラとバロールは生き残ったが、後の二人は残念ながら上級魔獣に殺されてしまったようだ。
「これだけの犠牲が出たのは、私の責任だ……」
リザーナ隊長は沈痛な面持ちだった。
「でも、あの魔獣は急に出てきたんだし……」
俺は彼女をかばった。
「あんなの、誰にも予測できませんよ」
「確かに……あれほどの魔獣が転移してくるなら、相応の兆候があるはず。それがいっさい探知されなかったのは気になるな」
何か、裏があるのか?
「たとえば――いや、今は憶測はよそう。まずは犠牲になった者たちの弔いを始める」
リザーナ隊長が言った。
「ここにいる全員でやろう」
――こうして、多大な犠牲を出した魔獣討伐戦は終わった。
俺にとっては初めての『強敵との実戦』が、凄惨な結果になったわけだ。
正直、心から喜べるような勝利ではない。
俺自身は大きく成長したし、強大な力を得られたけれど――。
「次は、誰の犠牲も出さずに勝ちたい……」
それから数日、今回の祝勝会をやるということになった。
「犠牲になった二人の弔いも兼ねて、ね」
と、ラヴィニア隊長が言っていた。
弔いのための祝勝会……か。
魔族の死生観は、少なくとも現代の日本人とは異なっていると思う。
多くの犠牲が出たから、祝勝会なんて自粛しよう――という考え方ではなく。
犠牲が出たからこそ、生き残った者は今の『生』に感謝する。
それこそが犠牲者への手向けであり、そして明日を生きる活力を得ることが大切なんだ――という価値観のようだ。
日常の中に『戦闘』『死』が身近にある魔族だからこその考えなんだろうか。
その考えに、俺はまだ馴染んでいない。
それでも郷に入れば郷に従えというし、祝勝会に出れば、少しは気持ちのモヤモヤも晴れてふっきれるかもしれない。
というわけで――。
俺たちの祝勝会が始まった。
隊員たちは、一部の体調不良者や用事でどうしても来られない者を除き、ほとんどが参加している。
嫌々参加させられたという感じじゃなく、みんなこの会を楽しみにしている感じだった。
前世では会社の飲み会は実質的に強制参加みたいな感じだったけど、ここは違う。
「では、我が部隊の英雄に……乾杯」
ラヴィニア隊長が音頭を取り、俺たちは乾杯した。
「お前、すごいんだな!」
「魔獣をたった一人で倒したんだっけ? おいおい、普段は力を隠してたのかよ?」
いや、闘技場で急に強くなったから……とも言えずに、俺は苦笑した。
飲み会はいい雰囲気だった。
俺が前世で経験してきた飲み会とは全然違う。
あれは上司から延々と説教されるだけの地獄だったからな。
でも、今は気のいい仲間たちと酒や料理を楽しみ、会話を楽しみ――最高に気分がいい。
「ああ、酒ってこんなに美味かったんだ」
俺はしみじみと思った。
きっと一緒に飲む相手次第で、全然美味しさが変わるんだ。
それを俺は初めて知った。
しかも人間ではなく魔族たちを相手に。
「いや、人間も魔族も大して変わらないか」
そう、魔族と言っても一概に邪悪な種族ってわけじゃないんだ。
その後、宴が進み――、
「ゼルくん、ちょっといいかしら?」
ラヴィニア隊長が俺のところに来た。
ふわり、と花のような香りが漂ってくる。
香水の類か、それとも元々そういう匂いなんだろうか?
大人の女って感じの香りというか、こうして近づかれるだけでドギマギしてしまったのは、酒で気分が高揚しているせいだけではないだろう。
「な、なんでしょう?」
「今回、君のおかげでミラとバロールが命を救われたわ。もちろん、他にも多くの隊員がね。私からも、あらためてお礼を言いたいの。ありがとう――」
深々と一礼するラヴィニア隊長。
「いえ、そんな……」
俺はもう何人もの隊員から礼を言われているので、もう十分だった。
「みんなが無事でよかったです。ただ、救えなかった者もいる……俺がもっと強ければ、そいつらも全員救えたはずです」
もう少し早く、異空間闘技場に行くことができていれば。
もう少しだけ早く、俺が力を手に入れていれば。
結果はまた違っていただろう。
それがもどかしいし、悔しい。
「君が思い悩む必要はないし、責任を負う必要もないわ」
ラヴィニア隊長が首を横に振った。
「君は君自身の力で事態を打開した。そのことに胸を張ってほしい」
「……ありがとうございます、隊長」
俺は礼を言った。
彼女と話しているだけで、なんだか気持ちが軽くなっていくようだ。
「ねえ、君が急に強くなったのはどうしてなの?」
ラヴィニア隊長が身を乗り出した。
「今までの君の力で上級の魔獣を倒すのは無理だと思うの。何かがあったんでしょう? 違うかしら」
「隊長……」
隊長、俺が以前から強かったのではなく、いきなり強くなった――と見抜いているのか?
「もし、急にパワーアップする方法があるとして……それは私にもできることなのかしら?」
ラヴィニア隊長がまっすぐ俺を見つめている。
「私は――もっと強くなりたい」
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