9 帰還、そして……無双伝説の始まり


「お、おの……れ……」


 倒れた阿修羅は三つの口から同時に血を吐いた。


 俺の方は距離を獲って警戒し、奴を凝視していた。


 今の一撃で倒せたのか、それともまた立ち上がって来るのか――。


 緊張で、心臓が破れそうだ。


「見事……だ……」


 と――、


 しゅおおおお……んっ。


 闘技場全体が光の粒子と化して、少しずつ消え去っていく。


「えっ? あれ……?」

「ボス級を倒すと、闘技場はいったん終了になる。いずれまた来るがいい」


 言いながら、阿修羅の顔に微笑が浮かんだ。


「お前は……まだまだ強くなれる――」


 そう言い残し、阿修羅もまた光の粒子となって消滅する。


 やがて、周囲のすべてが光の粒子となって消え去り、俺は真っ白な空間の中にいた。


「――俺を強くしてくれてありがとう、阿修羅。それにモンスターたち」


 俺は自然と一礼していた。


 カッ!


 すると、前方にまぶしい輝きがあふれ出した。


 たぶん、あれが出口だろう。


 あの先に、元の世界があるんだと思う。


「――行くか」


 元の場所に戻れば、上級魔獣が待っている。


 ここに来る前の俺には、とても歯が立たない相手だ。


 でも、今の俺なら――どうだろうか?


「なんとかなる、かな」


 不思議と恐怖はなかった。


 静かな自信が心の中に満ちている。


 過信や傲慢とは違う。


 自分の力を素直に評価した結果の、確固たる自信。




 そして――俺は闘技場を後にして、元の世界に戻ってきた。




「ふう……」


 大きく息を付き、吸う。


 空気が、違う。


 闘技場の無機質な空気感から、現実の熱量を伴った空気感へと変わった感じがした。


 前方には上級魔獣【ディグランザ】の姿がある。


 周囲には肉塊と化した仲間たちの姿。


 見たところ、生き残っているのは数人か。


「く、くそ、全滅するのか、俺たちは……」


 魔獣の前でうめいているのは、俺っ娘のミラだ。


「ひいいい……死にたくいない……死にたくないぃぃ……」


 おびえているのはバロールか。


 この絶望的な状況で生き残った魔族兵も、全員が絶望の表情を浮かべていた。


「――まだだ」


 ミラが二刀を手に、ゆっくりと前に進み出す。


「お、おい、まだ戦う気か!?」


 と、バロール。


「当たり前だ! 俺は最後までやる! 怖いなら、お前らは逃げろ!}


 ミラが勝ち気に叫んだ。


 大した闘志だ、と思う。


 これだけの力の差を見せつけられて、なお闘志が折れないなんて――。


 心が強いんだな、ミラって。


 俺は素直に敬意を払った。


 でも、だからこそ――力の差が明らかなのに、無茶な戦いを指せるわけにはいかない。


「【投擲】」


 俺は地面の石を拾い、思いっきり投げつけた。


 ごうんっ!


 ほとんど砲弾のような威力で、魔獣が大きく吹き飛ばされ、後退する。


「えっ……!?」


 ミラたちが驚いたように振り返った。


「大丈夫か、ミラにバロール、それに他の隊員たちも」


 俺は二人に、そして他のみんなにも言った。


「ゼル……!」

「遅くなって悪かったな。後は俺に任せてくれ」


 俺はミラを制し、吹っ飛ばされた魔獣の元へと歩みを進める――。


 ぐるるる……!


【ディグランザ】は怒りのうなり声を上げながら起き上がってきた。


 俺はその前に立ち、


「よう。好き勝手に暴れてくれたな」


 恐怖は、まるで感じなかった。


 闘技場での戦闘経験や、急激に上昇したステータスが俺に絶対的な自信を与えてくれていた。


 そして、もう一つ――。


「あの阿修羅に比べたら、まるで大したことないよな。こいつ」


 闘技場で最後に戦った強敵のことを思えば、恐れる必要は何もない。


 るおおおおおお……!


 そんな俺の気持ちが伝わったのか、魔獣が咆哮を上げた。


 そうだ、戦う前に俺のステータスを確認しておこう。


 闘技場で確認したのは、阿修羅との戦闘前のものである。


 ……って、闘技場じゃないとステータスって見れないのかな?


 などと思ったけれど、俺が念じると空中にステータスが表示された。


――――――

名前:ゼル・スターク

種族:デモンブレイダー

ちから:230→511

はやさ:322→773

HP:787→1709

MP:0

スキル:【上段斬り】【中段突き】【下段払い】

    【投擲】【集中】【回避】【突進】

    【高速斬撃・六連】←new!

――――――


 おお、阿修羅戦を経て、俺のステータスがとんでもなく上がっている!


 各数値が倍以上アップし、さらに新たなスキルも会得していた。


【高速斬撃・六連】。


 もしかして……阿修羅が使っていたスキルと似たような感じの攻撃だろうか?


 奴の必殺スキルを目の前で見て、実際に食らうことで、俺も似たような術理のスキルを会得できた……って理屈になるんだろうか。


 なんにせよ、こいつは強力そうなスキルだ。


「さっそくお前で試させてもらおうかな」


 俺は魔獣と向き直った。


「成長した俺の、新しい力を――」


 ごがあっ!


 俺の斬撃が、上級魔獣の巨体を吹っ飛ばした。


 なんだ、こいつ……こんなに軽いのか?


 ――いや、違う。


 俺のパワーがとんでもなく上がっているんだ!


 るおおおおお……!


 魔獣が立ち上がってきた。


 また突進してくる。


 今度は避けずに、正面から受け止めた。


「ぐっ……!」


 さすがにパワーはすごいな。


 スピード勝負だと俺が圧倒できるけど、パワーの方は俺の方が上だけど、圧倒まではいかない。


 ステータスの数値で見た通り、やはり俺の戦闘スタイルはスピードを活かしていくのがよさそうだ。


 俺は魔獣から距離を取ると、疾走を始めた。


 徐々に加速しつつ、奴の背後に回り込む。


 よし、決めるぞ――。


「【高速斬撃・六連】!」


 繰り出した六連撃が魔獣を切り裂き、打ち倒した。


「――ふうっ」


 あれだけ強大な敵だった魔獣を、雑魚敵を倒すように簡単に勝ってしまった。


 我ながら恐ろしくなるほどのパワーアップぶりだ。


「ゼル……!?」


 ミラとバロールが呆然とした顔で近づいてきた。


「お、お前、そんなに強かったのか……!?」





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