第12話 遂に二人の想いが通じ合ったかに思えたら
トントン。
「は、ハル君。ちょっと良い?」
「ああ」
風呂から飛び出た後、木乃香姉さんが俺の部屋に入ってきた。
「あのー、さっきはごめんなさい。ちょっと、調子に乗っちゃった」
「いや、俺の方こそ、ごめん……」
胸をポロリしたのを見ちゃったのを怒っているのかと思ったら、逆に謝られてしまい、申し訳なさが更に増してしまった。
「ハル君が、一緒にお風呂入りたいっていうから、恥ずかしかったけど、喜んでくれるならって思って……ごめん、やっぱり嫌だったよね」
「そんな事ないって。嬉しかったしさ」
「本当?」
むしろ、あのまま本当に裸の付き合いをして、あわよくば……と行きたかったが、そんな事をする度胸もなかった。
「そう。嘘でもそう言ってくれるなら、嬉しいよ」
「嘘じゃないけどな。また一緒に風呂入ってくれる?」
「水着着てじゃ、駄目?」
「いや、うーん……」
「な、悩むような所、そこ?」
当然。
もう少し煩悩に忠実にならないと、一線を越えられないじゃないか。
「まあ、今日は本当ごめん。お詫びに、何か言う事を一つ聞いてあげるよ」
「何か……」
謝る事ではないのに、木乃香姉さんが言う事を聞いてあげると言ってきたので、
「キスして」
「はい?」
「キスして欲しいなー。なんでも言う事を聞くんでしょ?」
「な、何でもとは言ってないと思うけど……」
もうこれは告白も同然だ。
流石にここまで言えば、俺が木乃香姉さんの事を異性として好きだって事くらいは、気付くだろうよ。
「う……じゃあ……」
流石に狼狽えている木乃香姉さんだったが、頬を赤くしながら、俺に顔を近づける。
おっ、本当にやってくれるのか。
木乃香姉さんにキスされるの、めっちゃ楽しみ……。
「ん……」
「…………っ!?」
俺に徐々に顔を近づけ、唇に柔らかい物が重なる。
おお、本当にやって……いいっ!?
「ん……こ、これでいい?」
「…………」
「な、何か言いなよ。めっちゃ、恥ずかしいんだから」
「い、いや……今の……」
キス……ていうか、口移し、接吻?
ま、マジで!?
いや、頬にしてくれるのかとばかり思っていたから……。
「ハル君がしてって言ったんじゃない。私、悪くないよね?」
「で、でも……ほ、頬にしてくれるのかとばかり……」
「あ、そうだったの? じゃあ、改めて……ちゅっ」
「――っ!」
そう言うと、木乃香姉さんは右の頬にもキスをしてくれ、彼女の柔らかい唇が頬に触れる。
「これで終わり……ね」
「あ、うん……いや、良いのかよ、木乃香姉さん!」
「な、何が? ハル君がして欲しいんじゃなかったの?」
「だけど……初めてだったし……」
「あ、やっぱり……彼女との方が良かった?」
まさか、木乃香姉さんが口にキスをしてくれるとは思わず、あまりにも予想外の事に、パニックになってしまった。
「あの、木乃香姉さん……もしかして、俺の事……好き?」
「それは好きだけど……」
「弟してじゃなくてさ。俺達、血が繋がってないんだよね! だったら、付き合っちゃおうよ!」
「っ! な、何でそれを……」
「はっ!」
いきなりのキスに動揺してしまったのか、ついそう口にしてしまい、ハッと口を噤む。
ヤバイ……とうとう言ってしまった。
「は、ハル君、今の……どうして……」
「あ……その……木乃香姉さんも知っていた?」
「それはまあ……でも、ハル君が何処から聞いたのよ? 私もお父さんもお母さんも言ってなかったよね?」
「それは……」
ああ、木乃香姉さんも知っていたのか……というか、そうだよな。
「二十歳になって教えてくれたの。お母さんは結婚する前に私を産んで、二歳の頃にハル君のお父さんと結婚したんだって。それで、その後に両親が引き取ったのが……ハル君なの……赤ちゃんの時に」
「引き取ったって、何処から?」
「詳しくは教えてくれなかったよ。でも、父方の親戚の子らしいよ。何か訳ありみたいだけど……ごめん、私も調べたけどわからなかった」
訳ありってのが気になるが、養子なら血が繋がっていないのは確かか。
「本当はハル君が高校卒業したら言おうかなって思ったんだけど、まさか知っていたとは思わなくて……」
「いや、それなら良いんだ。というわけで、俺と付き合わない?」
「な、なんでそうなるの!?」
「血の繋がりがないなら、問題ないじゃん! 木乃香姉さんを彼女にしたいなー。駄目?」
「だ、駄目っていうか……ハル君のことは好きだけど、私はあくまでもハル君の保護者な訳だし……それに、十八歳未満と性行為するの犯罪なんだよ! だから今はちょっと……」
性行為する前提ってのがちょっと驚いたが、キスしたりするのはokなんだろうか?
まあ、これで最大のハードルは取り除けたわけだ。
「俺、木乃香姉さんとどうしても付き合いたいなあ。だから、良いでしょ。一緒にお風呂入る仲なんだし」
「よ、よくいえるね、そんな事! お姉ちゃんに大して恥ずかしくないの?」
いや、弟と一緒に風呂に入った人がそれを言う?
しかし、まだ迷いがあるのはやっぱり義理とはいえ、姉と弟という立場かあるからか。
「お願い! 俺、木乃香姉さん以外の人は考えられないんだ!」
「だ、だから……気持ちは嬉しいけど、今はちょっと……」
頬を赤らめ、視線を逸らして、そう呟く木乃香姉さんであったが、満更でもなさそうなのは瞳を潤ませて、きっぱり否定しない時点ですぐにわかった。
あと一押し……何とか、あと一押しで行けそうなんだけどなあ……。
「今すぐは返事出来ないかな……ごめん」
「じゃあ、いつ返事くれる? 明日?」
「ハル君が大人になるまで……もっと言うと、大学卒業して就職したらとか……」
それは長すぎるって!
あと何年待てば良いんたよ! 煮えきらない態度に流石に苛立ってきたが、
「お試しでも良いから付き合ってくれない?」
「そういうのは……何か、キープしているみたいで」
「キープでも構わないから。てか、木乃香姉さんが他の男と付き合っちゃう方が嫌だし」
俺の方が、木乃香姉さんを絶対にキープしたい気分なんだが、そんな曖昧な関係よりはさっさと付き合ってしまった方が良い。
もう想いは伝えたので、後は木乃香姉さん次第だ。
「とにかく、俺と付き合ってくれ」
「だから、それは……」
「じゃあ、今度の日曜、デートしよう。つか、毎週デートしようか」
「それは別に構わないけど、待って。やっぱり、ハル君は弟してみたいし、踏ん切りが……」
中々、崩せそうで崩せないな。
仕方ない。今夜の所は、一旦引いておこう。
「じゃあ、日曜デートね」
「うん。今日はもう遅いから、おやすみ」
「おやすみ」
「ごめんね……お詫びになるかわからないけど……ちゅっ」
「――!」
木乃香姉さんが俺の頬に不意にキスをする。
「きょ、今日はこれで許して……」
「あ、ああ……待って」
「え?」
「もう一回やって」
木乃香姉さんの唇の感触がまだ残っている間に、もう一回せがむと、
「んもう、しょうがないなあ……もう一回だけよ。ん……」
反対の頬にキスをしてくれた。
ああ、やっぱり良いなあ……何度でもしてもらいたい。
「も、もう一回」
「あん、甘えん坊ね……じゃあ、ちゅっ、ちゅっ♡」
もう一回とせがむと、今度は両方の頬に続けてキスをしていく。
「も、もう良いでしょう?」
「最後に……」
「ひっ……んんっ!」
何度かキスをしてくれた後、トドメとばかりに木乃香姉さんと唇を重ねる。
最初は驚いていたが、抵抗することなく受け入れ、しばらく口づけを続けていった。
「じゃあ……もういいよ」
「んもう……おやすみ、ハル君」
顔を離した後、そう言って木乃香姉さんは俺の部屋を出て、二人のあまーい夜は過ぎていった。
ここまでしてくれるなら、俺の事を好きなのは間違いない。
あとは俺の彼女になると正式に木乃香姉さんが言ってくれるかだが……きっと、俺の気持ちに答えくれるよね?
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