第11話 木乃香姉さんと一緒にお風呂に入りたいと頼むと……
「ただいま」
「おかえり。お風呂にする? ご飯にする?」
夜中、バイトから帰ってきた俺を木乃香姉さんがエプロンを着用した姿で出迎える。
今の新婚夫婦みたいなやり取り――こう答えるのが定番だろうな。
「ん? どうしたの?」
「木乃香姉さんがいい」
「はい?」
「いや……ご飯とお風呂、どっちが良いかって聞いて来たからさ」
「…………」
八割くらい本気で言ったのだが、木乃香姉さんは予想外の返答だったのか、しばらくその場で黙り込んでしまった。
やべ、外しちゃったかな……?
「ぷ……もう、私、食べられないわよ。冗談は止めなさい」
「はは、だよな……でも、冗談じゃないんだ。ご飯やお風呂より、木乃香姉さんが欲しいなーって……」
流石に言ってて恥ずかしくなってきたので、後半はかすれる様な声になってしまったが、それを聞いても木乃香姉さんはクスっと優しく笑い、
「もう、ハル君はしょうがない子だなあ。ほら、早く上がって、手洗いうがいする。夕飯、レンジで温めるからね」
「はい……」
うーん、やっぱりまた大人の態度であしらわれてしまったか。
どうすれば届くんだろうな、この気持ちは。
(いっそ、押し倒してしまうとか?)
いや、そんな事したら、下手すれば俺の人生が終わってしまう。
でもそのくらい強引に行かないと、木乃香姉さんとの仲が進まない気がする。
どうしよう?
いやいや、はやまるなって……。
何て、邪な考えが頭を過り、それを打ち消すのに必死になっていた。
「じゃあ、そろそろ風呂入るわ」
「うん」
夕飯を先に頂き、食器洗いを済ませた後、お風呂に入ることにする。
疲れたので、さっさとお風呂に入って寝たい……と思ったが、
「あのさ、木乃香姉さん」
「何?」
「一緒に入らない?」
「はい?」
お風呂に一緒に入らないかと誘うと、案の定、木乃香姉さんは呆気に取られた顔をして、固まってしまう。
まあ、これは駄目元だけど、木乃香姉さんとの仲を少しでも進展させるためだ。
強引でセクハラじみた事でも、やらないと、男女の仲にまでいけないじゃない。
「はあ、そういうの私以外の女子にやると、セクハラになるからね」
「こ、木乃香姉さんだから頼んでいるんだよ。駄目?」
「駄目よ、恥ずかしいし」
ですよねー。
いつも、俺のこういう発言も笑顔で受け流す木乃香姉さんであったが、今回ばかりは流石にちょっと怪訝な顔をしているので、心象を悪くしてしまったのは間違いない。
とはいえ、いきなり弟から風呂に入ろうと言われても、困るのは確かだろうしなあ。
「最近、ハル君、ちょっと甘えすぎじゃない?」
「そ、そうかな?」
「そうだよー。別に、ハル君に甘えられるのは嫌じゃないけど、ちょっと下心を感じるというかさ。大丈夫? もしかして、好きな子にフラれたとか?」
「そんなんじゃないって! そ、その……たまには、一緒に風呂に入って、裸の付き合いをするのも良いかと思って……」
自分で言ってて恥ずかしくなってしまったが、今のも高校生の男子が姉にいう言葉ではない。
てか、いい加減、気付いてれないかな……俺が木乃香姉さんの事を、異性として好きだって事を。
でもそれに気付いたら、気持ち悪いと思われちゃうかもしれないけど、その時は実は血が繋がってないって説明すればきっと……。
「よ、よく言えるね、そんな事」
「自分でも感心しちゃった……それで、駄目?」
「う……水着着ても良いんなら、別にいいけど」
水着か……それでも、一緒に風呂に入れるというなら、それでも構わないと言いたいけど、それだとプールと殆ど変わらない。
もちろん、水着を着てようが、この年になって、姉ちゃんと風呂に入るなんて、普通はないんだけど、そこは妥協しちゃいけないんだ。
「いやー、水着なしってのは駄目?」
「だ、駄目に決まってるじゃない」
「うん……そうですよね……」
やっぱり、駄目か……流石にそうだよな。
これ以上、無理におねだりすると、いくら木乃香姉さんでも怒らせてしまうので、今回は諦めるしかなかった。
「はあ……」
頭を流し終わり、バスチェアーに座って、ガクっと肩を落とす。
裸で風呂に入るのは流石にハードルが高すぎたというか、調子に乗り過ぎたな。
もう本当に付き合ってくれと、押し倒すしかないのかもしれない。
それで拒否されたら……うう、木乃香姉さんと一緒に住めなくなるのも嫌だし、そこまでは出来ない。
本当にこのまま何の進展も……。
「ハル君、いい?」
ガラっ!
「え?」
何て悶々としていると、急に浴室のドアが開かれ、何事かと振り向いてみると、何と木乃香姉さんがタオルを巻いた状態で、浴室に入ってきた。
「な、何だよ、急に?」
「何って、ハル君が一緒にお風呂に入らないかって言ったんじゃない……水着が駄目なら、タオルなら良いかなって思って」
と、顔を赤らめて恥ずかしそうな顔をしながら、たどたどしい口調で木乃香姉さんがそう言ってきたが、そんな様子が可愛すぎて、胸がドキドキして破裂しそうになってしまった。
バスタオルを巻いているとはいえ、かなり薄手のタオルで、しかも胸と鼠径部がギリギリ隠れるくらいの長さのタオルを巻いており、綺麗な太ももが露になっており、とても色っぽい姿で思わず釘付けになってしまった。
「もう、あんまり見ないの! ほら、背中を流すから、あっち向いて」
「あ、ああ……ねえ、タオルは……」
「無理、取らないからね」
「裸の付き合いをしたいんだけどなー」
「はあ……お姉ちゃんの裸なんか見ても、別に嬉しくないでしょう?」
もちろん、普通ならそうだろうな。
でも木乃香姉さんの裸なら、誰よりも見たいんだよ。
「ハル君も、大きくなったね。すっかり逞しくなって」
「そうかな? 普通だろ」
「普通かどうか知らないけど、昔よりは男らしくなったよ。ああ、流しがいがあるな、この背中」
と、ゴシゴシと泡の付いたスポンジで、俺の背中を洗いながら、感慨深げにそう言ってくれ、何となく嬉しくなってしまった。
まあ、少しは男として見てくれたって事だろう。
「はい、流すよ」
「うん。おー、すっきりしたわ」
「ふふ。じゃあ、私、もう出るね」
「ま、待って。木乃香姉さんの背中も流したい」
「は、はい?」
お湯で流したら、さっさと出ようとしたので、咄嗟に手を掴んで、そう頼む。
「木乃香姉さんの背中も流してあげるよ」
「せ、セクハラだ、それ……ああ、もうそこに座るから、ちょっと目を瞑って」
「はーい」
何だかんだでOKしてくれたので、椅子から立ち上がり、木乃香姉さんが座る。
巻いていたバスタオルをそっと外して、白く美しい背中を俺の眼前に晒してくれた。
「ほ、ほら……」
「お、おお……」
遠慮なく、木乃香姉さんの背中を泡立てたスポンジで、ゴシゴシと流していく。
ああ、肌も白くて綺麗だな……ちょっと、手で触ってみると、スベスベして気持ちいい。
「ちょっと、手つきがエロイんだけど」
「木乃香姉さんが綺麗すぎてさ」
「少しは言葉を選んでよ、もう……ほら、もういいでしょう。早く流して」
「あ、ああ」
一、二分くらい背中を擦った所で、泡に塗れた彼女の背中を流していく。
「きゃっ! タオルが濡れちゃた……」
「――!」
木乃香姉さんの巻いていたタオルに、シャワーのお湯がかかってしまい、木乃香姉さんが思わずタオルを外してしまう。
すると、前にある鏡に木乃香姉さんの隠していた胸が……。
「く……こ、木乃香姉さん……」
押し倒したい……でも、流石に……。
「ん? ハル君、大丈夫?」
「あ……も、もう出るわ!」
「あ、ちょっとっ!」
思いもかけず、木乃香姉さんの胸を見てしまい、理性が爆発しそうだったので、慌てて浴室を出る。
結局、煩悩より理性が勝ってしまい、一線を越える事も出来なかったのであった。
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