第89話

「……でも、俺、」

「怖いですか? 大丈夫です」



微かに狼狽える夏向さんに

私はただ穏やかに呟く。


そう。大丈夫。


そう確信した強い瞳のまま

私は夏向さんを真っ直ぐ見つめて笑った。



「言ったでしょう?大好きだからずっと応援してます。私はこれからも夏向さんの味方です」



そう微笑む私に

何か言いたげな目をする夏向さんに気付く。


だけど私は気付かぬフリで

にっこり笑ってそれを遮る。


大好きな夏向さんの前では

最後までせめて笑っていたい。


本音を聞けばきっと我慢できない。

この場で崩れ落ちてしまいそうだった。



「しつこくつきまとってすみませんでした。もう二度と好きだなんて言って困らせたりしません」



そう言い残してぺこりと頭を下げると

私はくるりと踵を返してその場を駆け足で去る。


後ろで夏向さんが私の名前を呼んだ気がしたけど

私は振り返ることが出来ぬまま、急いで体育館を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る