第84話
「……本気じゃないくせに」
そうぽつりと呟く夏向さんに
私は思わず取るべき表情を見失ったまま固まる。
「え?」
思わず呆ける私に
少しだけ何か考え込むようにしてから、夏向さんがゆっくり顔を上げる。
笑ってもらえるとは思ってなかった。
だけど想像もしなかった軽蔑するような夏向さんの瞳に射抜かれて
足がすくんだ私は、身動きが取れなくなる。
睨むような夏向さんの目付きに
胸がどくんと冷たくなる。
ただ息を呑んで黙り込む私に
夏向さんは明らかに嫌悪を滲ませた瞳で小さく笑う。
「馬鹿にするなよ。修二の言う通り俺だったら押せばいけると思った?」
そう低く吐き出された言葉に
思わずぴくりと肩を弾ませてしまう。
静かに夏向さんを見つめる私を
じろりと睨んだまま、夏向さんは微かにその声を震わせた。
「お前のその冗談はもう聞き飽きた。へらへら笑って好きとか言うんじゃねぇよ」
怒りの感情を孕んだその声を
聞こえてはいたけど、上手く受け止めることが出来ない。
呆然とただ固まることしかできない私に、夏向さんは吐き捨てるように続けた。
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