第83話

「夏向さん」



気付けば自然とその名を口にしていた。


夏向さんが、ん?と振り返る。

その瞳がどこか優しい気がして、胸がぎゅっとなる。



泣き出しそうな自分に気付く。

だけど、夏向さんに気付かれる訳にはいかなかった。


小さく決意した私は

ぎゅっと唇を噛み締めてからゆっくり顔を上げる。



その顔に、きちんと笑みを、貼り付けて。



「好きです、付き合って下さい」



唐突な私の告白に

一瞬驚いたように夏向さんが目を丸くする。



いつか届くとそう信じて

何度も何度も、打ち明けてきたこの気持ち。


もうきっと、伝えられるのは、これが本当に最後だ。


そう思うだけで

心がどうしようもなく震えた。



振り向いてもらえるとは思ってない。

だけど最後に届いて欲しい。




夏向さんがずっと

ももさんのことを好きだったと知ってる。


だけど

私だって、ずっと、夏向さんのことが好きだった。



この気持ちだけ

せめて、夏向さんに知っていて欲しかった。


―――なのに。

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