第81話

「……なんでですか?」

「なんとなく。元気ないから」



無意識に何かを誤魔化すようにへらりとする私に

くすりともせぬまま夏向さんがじっとこちらを見てくる。


その真っ直ぐな瞳に

私は思わずカゴを押しながら黙り込んでしまう。



“何かあったのか”の問いに

うんともううんとも言わない私に、夏向さんは黙ったまま何も言わない。


ただ傍にいてくれた後

無言のまま私の手から重たいボールカゴを優しく奪って、代わりに倉庫へ片付けてくれた。


倉庫の出入口付近に立ち尽くして

その後ろ姿をぼんやり見つめる。


多分何かに落ち込む私に気付いていて

何も言わずに当たり前みたいに思いやりをくれる。



ずっと見てたからとっくに知ってる。

優しいんだ。この人は。


それを実感して

私は思わず顔を伏せて唇をぎゅっと噛み締めてしまう。



―――ああ。

私、夏向さんのことが、本当に好きだ。

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