第81話
「……なんでですか?」
「なんとなく。元気ないから」
無意識に何かを誤魔化すようにへらりとする私に
くすりともせぬまま夏向さんがじっとこちらを見てくる。
その真っ直ぐな瞳に
私は思わずカゴを押しながら黙り込んでしまう。
“何かあったのか”の問いに
うんともううんとも言わない私に、夏向さんは黙ったまま何も言わない。
ただ傍にいてくれた後
無言のまま私の手から重たいボールカゴを優しく奪って、代わりに倉庫へ片付けてくれた。
倉庫の出入口付近に立ち尽くして
その後ろ姿をぼんやり見つめる。
多分何かに落ち込む私に気付いていて
何も言わずに当たり前みたいに思いやりをくれる。
ずっと見てたからとっくに知ってる。
優しいんだ。この人は。
それを実感して
私は思わず顔を伏せて唇をぎゅっと噛み締めてしまう。
―――ああ。
私、夏向さんのことが、本当に好きだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます