第80話

「瑞希ちゃんごめんね」

「え?」

「瑞希ちゃんはずっと夏向くんのこと好きだったの知ってたのに」



伏し目のままそう呟くももさんに

私は変わらず固まったまま相槌の1つもろくに打てない。


だけどこちらの反応を待たずに

ももさんはゆっくり顔を上げると、無垢な瞳のまま、もう一度私の顔を覗き込んでくる。



「でも夏向くんが私のことを好きだったら、もう仕方ないよね」



そう微笑まれて

ぐちゃり、と心が潰れる音がした。



「―――」



思わず目を見開くだけ。


固まったまま動けない私に見限りをつけたように

ももさんは弱く微笑むと私をその場に残して1人で体育館へ向かう。



頭の中

ももさんの言葉が何度も響く。




―――夏向くんが私のこと好きだったら仕方ないよね。




最後に夏向さんの笑顔が過ぎって

自分のすべきことを悟った私は、その場で思わず目を閉じた。












「なんかあったのか?」



その日の練習後。

ボールを倉庫へ戻そうとカゴを押す私は、ふと声をかけられてぼんやり顔を上げる。


それから、思わず目を見開く。


そこには私の顔を何故かどこか心配そうに覗き込む

夏向さんの姿があった。

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