第79話

「夏向くんが今でも私のこと好きでいてくれるって噂聞いちゃって」

「……はい。私も聞きました」

「あ、ほんと? ならよかった」



思わず俯く私に

ももさんは手を叩いて無邪気に笑う。



「実は前に付き合ってたんだけど、私から振っちゃったんだ。それでもずっと私のこと想ってくれてたって知って何か感動して」



そうどこかはにかむように笑うももさんに

私は自分の身体が小さく震えているのに気付く。


いやだ。

聞きたくない。


咄嗟に耳を塞いでしまいたくなるのに

すっかり固まってしまった身体では指一つ上手く動かせない。


さっきからずっと

どくどく鳴る心臓が五月蝿い。


息がうまくできなくて

何だか、胸が、苦しい。



「私からは言えないけど、もし夏向くんが伝えてくれたら気持ちに応えたいなって思ってる」



そうゆるりと笑うももさんを

硬直したままただ息を詰めて見つめることしかできない。


反応も出来ずに黙り込む私に

ももさんはふと小さく微笑むと、もう一度申し訳なさそうに目を伏せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る