「君が好きな人と幸せになれますように」

第77話

6月も中旬を過ぎて

梅雨入りをした今日の空は朝から不機嫌そうにぐずついている。


放課後、しとしと雨が振る様子をぼんやり眺めながら体育館へ向かおうと廊下を歩いていると

ふと向こうから見覚えのある人がこちらへ向かってくるのが見える。


それに気付いてなんとなくぎくりとする。

私は小さく息を吸い込んで、笑顔で声をかけた。



「ももさん、こんにちは」

「あ、瑞希ちゃん」



声を掛けられてぱっと笑顔になるももさんは、綺麗な長い髪をさらりと揺らす。

今日も文句なく圧倒的に美人だった。


なんとなく気圧されながらも

私はどうにか小さく笑ってもう一度顔を上げた。



「ももさんも体育館ですか?」

「ううん、今日は部室に荷物取りに行くだけ。でも明日からしばらく部活顔出そうかなって」



予想外のその返答に

え、と思わず声が出る。


ぽかんとしてしまう私に気付いて

ももさんは弱く笑って肩をすくめた。



「へへ、実は彼氏と別れちゃって」



そう続けて困ったように目を伏せるももさんに

どくん、と心臓が冷たくなるのが分かる。


思わず固まってしまう私に

しばらく小さく笑っていたももさんがゆっくり顔を上げる。


じっと目を覗き込まれて

何かを予感して、胸が震えた。

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