第73話

「他の誰かを好きなままじゃなくて、ちゃんと私のことを好きになってもらうって決めてるんです」



そう真っ直ぐな目で言い切る私に

修二さんはきょとんと一度目を丸くしてから、そこで初めて私を馬鹿にしたような笑顔を見せた。



「はは、すごい自信。俺真似出来ないわ」



そう嘲るように笑われて

私は思わず黙り込んでしまう。


他人になんと言われたって別にいい。


笑われようが馬鹿にされようが

諦めなければいつか気持ちは届くと本気で信じてる。


そう。信じてる。

信じてる、けど。



「―――」



気付けば微かに

自分の手が震えているのに気付く。


修二さんに気付かれたくなくて

私は無意識にそれを匿うようにぎゅっと強く拳を握り締めた。


急に黙り込んだ私を不自然に思ったらしい。

不思議そうにきょとんと瞳を丸めてから、修二さんがまるで慰めるように私の頭にふと手を伸ばしてきた


ちょうど、その時。



「おい、何の話してんだよ」



ふと背後から聞き慣れた声がして

私は弾かれたように顔を上げる。


そこにいた―――夏向さんは

私に触れようとしていた修二さんの腕をぐいっと掴んで私から引き離す。

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