第72話

「あいつ、もものことが好きなんじゃないの」



不意打ちの攻撃に

防御を張る暇も無かった。


無情な言葉を突き立てられて

遅れて、痛い、と胸が叫ぶ。



別に夏向さんが誰を好きでも関係ない。


私は夏向さんのことが好きで

ただ、それだけで


いつか絶対に振り向かせると元々決めていた。



だけど一瞬弱った心の中

ももさんと過ごすどこか嬉しそうな夏向さんの笑顔がちらつく。


多分あまり気持ちを言葉にするタイプの人じゃないけど

それでも、誰が見ても、夏向さんの気持ちはきっと明らかだった。


黙ったまま俯いてしまう私に構わず

修二さんは軽く笑ってから、悪びれる風もなくさらりと首を傾げた。



「まあでも夏向も瑞希のこと嫌いじゃなさそうだし、押しまくったら付き合えそうじゃない?」

「嫌ですよそんなの」



続いたその無責任な言葉を

小さく笑い飛ばすと、私は無意識にぐっと顔を上げる。


恐らくそれは冷やかしの類で

悪意とも呼べないようなささやかなものだった。


落ち着け、と心の中唱えて

私は立て直すように笑って弱く首を振った。

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