第71話

「あの坂走って桜の木に触るとお願い事が叶うんですよ」



そう自信満々に答えた私に

修二さんがどこかからかうような目で小さく吹き出す。



「ああ、なんかのジンクスだ。そういえばクラスの女子が話してるの聞いたことある」



そう微かに目を細める修二さんに

そうそうと言わんばかりに私はこくこく激しく頷いてみせる。


ふーん、とあまり興味なさそうに呟いてから

修二さんがにやりとその口元に笑みを浮かべる。



「あれか。夏向か」

「え?」

「だって好きなんでしょ? なに、付き合えますようにとかお願いしてるの?」



そうにやにや悪い顔で笑う修二さんに

私は何故笑われているのかが理解できないまま、それでも頷こうとする。


だけど。



「でもさ、さすがにアピールし過ぎじゃない?」



続いた笑い声に

私は返すはずだった自分の言葉をつい飲み込んでしまう。


思わず黙り込んだ私の

一瞬の隙を突くように、修二さんの言葉が鋭く刺さる。

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