第68話

「付き合ってるんじゃないかって言ってる奴もいるけど」

「いやいやまさか」

「なんだ。つまんない」



あっさり否定する夏向さんに

友人さんはどこかつまらなそうに唇を尖らせる。


それからもう一度にやりと目を細めて

夏向さんの肩をぽんと叩いて、無責任に笑う。



「毎朝待つほど好きなら告白すればいいのに。ていうか向こうもお前のこと好きそうじゃない?」

「違う。あいつは誰にでもそうだから」



そう唆されて、夏向さんは困ったように小さく笑う。


確かにももさんは愛嬌があって

誰にでも近い距離感で接する人だ。


いくら親しげに笑いかけられたとしても

ももさんの夏向さんへの気持ちは分からない。



自分だけが特別なわけじゃない。

夏向さんもそれが分かっているから、あんな風にどこか寂しそうに笑うのだ。



色んな感情がぐちゃ混ぜになって

胸がぐっとなって思わず私は唇を噛み締める。


ちょうど同じタイミングで始業を知らせるチャイムが鳴って、会話を打ち切った友人さんが自分の教室へ戻っていく。



……ああ。

私も行かなくちゃ。


柱にもたれたまま、頭の中でぼんやりそう呟くのとほぼ同時。


友人さんと別れた夏向さんがこちらへ向かって歩いてくるのに気付いて思わず青ざめる。


ぼんやりしていて気付くのが遅れた。

逃げ場も隠れ場もなくただ柱の陰で棒立ちになる私に、無情にも気付いた夏向さんが心底驚いたように目を丸くした。

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