第66話

「……うん、まあ」



そうはにかんで頷く夏向さんに

ぐしゃり、と心が潰れた音がした。



ももさんのことを目で追っていた

夏向さんの横顔が脳裏にちらつく。



大丈夫。

夏向さんの気持ちは分かってた。


別に今更傷ついたりしない。


そう何度も心の中繰り返すのに

何だか呼吸が上手くできない。


心臓が痛い。



―――うん、まあ。



悪い呪文みたいに

照れ笑いする夏向さんの言葉が何度も何度も耳の奥で響く。


無意識に手にしていた化学の教科書をぎゅっと抱きしめる私を置き去りに

友人さんは、はは、と軽い笑い声を上げた。

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