第65話

休み時間の廊下のど真ん中

人波に紛れてつい足を止めた私に、どうやら向こう側2人は気付いてないらしい。


夏向さんを呼び止めた男子生徒が

どこかからかうような目でにやにやと夏向さんに笑いかけているのが見えた。



「夏向、お前噂になってるぞ」

「? 何の?」



言われていることが本当に分からないらしい夏向さんが

少し怪訝そうな顔で首を傾げている。


だけど友人さん方は変わらず楽しそうに笑いながら

夏向さんにがっと勢いよく肩組みして、悪戯っぽくその瞳を輝かせた。



「朝、校舎裏の桜の木の下で夏向がいつも誰かの事待ってるって」



―――続いた言葉に

心臓が、ひやりと、冷たくなる。


何の防衛なのか、素早く身を翻して柱の影に身を潜めてしまう私を

友人さんの残酷な笑い声が追いかけてくる。



「あのマネージャーの子のこと待ってるんだろ?」



そう続いた質問に

夏向さんが、何かを考えるように、一瞬黙る。



あ。聞きたくないかも。

そう思った時には、もう遅かった。


耳を塞いでしまいたいのに

身体が固まって、上手くできない。


身動きが取れずにただ陰で息を詰めてしまう私に構わず

夏向さんが、あー、と呟いてどこか照れたようにその目を泳がせた。

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