第60話

「もしかして夏向さん、ついに私のこと好きになったんですか!?」

「……どうしてそうなるんだよ」



そう瞳を輝かせる私に

夏向さんが露骨に顔を顰めてため息を吐く。


だけどそんなこと

今の無敵の私には響かない。


何だか感極まって胸がいっぱいになって

私はもう一度受け取ったボトルをまじまじと眺めてしまう。


何の変哲もない水だった。


だけど夏向さんがくれたそれは

夜の街灯の白を帯びて、まるで宝物みたいにキラキラ光った。



「わーー、もったいなくて飲めないなあ」

「なんでだよ。折角買ったのに」

「は、そっか。そうですよねすみません。では僭越ながら飲み終わったらペットボトルを家宝にします」



本気で保存しておくことも考えたけど

確かに折角のご厚意を無駄にするわけにはいかない。


私は丁寧にボトルのキャップを回すと

ごくりと水を一口飲んで、再び顔を輝かせてしまう。



「美味しい!」



ただの水だろ。

夏向さんの顔にはそう分かりやすく書いてある。


いちいち大袈裟に反応する私に

すっかり呆れ顔の夏向さんに、私はふふっと小さく笑うともう一度顔を上げた。

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