第59話
「あれ、あれ、おかしいな」
夏向さんを待たせてしまっている手前
財布が出てこないことになんだか気持ちが焦ってしまう。
しばらくして焦れたように夏向さんがゆっくりこちらへ歩いてくるのと同時
ようやく財布を探し当てた私は、思わずぱっと顔を輝かせた。
「あったあ! すみません、お待たせしま」
財布を掲げて顔を上げた私の脇を
夏向さんがすり抜ける。
一瞬の出来事だった。
え、と振り返ったその直後
夏向さんが自分の定期のICカードを自販機にかざしているのが見える。
ガコン、と音がして
自販機が吐き出したペットボトルを拾い上げて夏向さんが差し出してくる。
「ほら」
目の前に突き出さた水と夏向さんを見比べながら
私はそれを受け取ることが出来ない。
痺れを切らしたように夏向さんが
ペットボトルを少し強引に私に押し付けてくる。
「え、くれるんですか?」
「喉渇いてるんだろ?」
「そうだけど、そうだけど、えーーー」
つい動揺してしまう私は
手の中のペットボトルを眺めながら、何度も何度も指で撫でてしまう。
それからはっとして
私は思わず、あ!と閃いて笑顔のまま顔を上げた。
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