第58話
「夏向さん、一緒に帰りたいです」
そう笑う私に
夏向さんは一瞬呆れたようにその目を細める。
だけど負けじと顔を上げた私は
何か言いたげな夏向さんを跳ねのけるように急いで付け足す。
「今朝タイミングなくてお願い事するの忘れちゃったんですよ。だから代わりに」
「……頼みごとは俺じゃなくて木に言えば?」
「まあまあ。細かいことはいいじゃないですか」
納得がいかなそうな夏向さんを言いくるめるように
ただへらへらする私。
言うだけ無駄だと諦めたように
夏向さんは大袈裟に肩を竦めるとじろりとこちらを見てくる。
「早く帰るぞ」
肩越しにため息と共に吐き捨てられたその言葉に
私は思わずやった!!とその場で叫び出したくなる。
さっさと先に歩き出してしまう薄情な夏向さんを追いかけながら
つい顔が勝手ににやけてしまうのを抑えることが出来なかった。
「あ、夏向さん待って」
ちょうど坂道を下り切った辺り。
自販機の前を通りかかった私は立ち止まって夏向さんを呼び止める。
「ちょっと喉渇いちゃって。お水買ってもいいですか?」
そうリュックを下ろす私に
夏向さんは足を止めて待っていてくれる。
急いでリュックの中に突っ込んだ手を
探るように掻きまわしても、なかなか財布に辿り着けない。
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