第57話
「1人ですか?どうしてみんなと帰らなかったんです?」
「……別に」
そう目を伏し目がちのままぽつりと応えて
夏向さんがゆらりと顔を上げる。
「遅かったな」
「え?」
「コーチに呼ばれてたんだろ。こんな時間まで何してたんだよ」
「ああ。この間の試合のスコア表みたいって言うから届けてただけですよ」
そうさらりと笑う私に
あっそ、と興味なさげに呟く夏向さんが床に下ろしていたカバンを肩にかけて立ち上がる。
黙って坂を下りて行こうとするその背中をぼんやり見ながら
私はその不自然さに思わず首を傾げてしまう。
え。このタイミングで帰るの?
今までここに座ってたのに?
……もしかして待っててくれた?
一瞬生まれた自惚れを
いやいやそんなはずがないと直後に自分で否定する。
その背中を追いかけていいものか
判断に困ってわずかに迷ったその直後
「あ!」
あることを思い出して声を上げた私に
先を歩いていた夏向さんが足を止める。
不思議そうな目で振り返る夏向さんに
私は小さく何かを企むような笑みを浮かべながら、てててと桜の木の傍まで駆け寄って、その木に触れた。
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