第54話
「へへ、折角だけどすみません。ちょっとそれはできないかもしれない」
「え?」
そうへらりと小さく笑う私に
意外だったのか、後藤くんが目を丸くする。
だけど私は揺るぎない瞳のまま
真っ直ぐに笑うと、はっきりと続ける。
「私好きな人がいるんで」
そう迷いなく答えた私に
後藤くんは、そっか、と消えそうな声で呟いた。
「急にごめん。聞いてくれてありがとう」
そう伏し目のまま言い残した彼が
私の返事を待たずに踵を返してどこかへ行ってしまう。
その背中をぼんやり見送ってから
1人きりになった木の下で、私は小さく息を吐くと、はっきりした声で続ける。
「出てきていいですよ、夏向さん」
そう躊躇いなく笑う私に
やや沈黙してから、少し離れた木の影から夏向さんが無言のまま姿を現す。
ばれてたか、とでも言いたげな
どこか気まずそうな夏向さんに私は小さく肩を竦めてからあっさり笑いかける。
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