第53話

「あ、びっくりさせてごめん。俺隣のクラスの後藤って言います」

「はあ」

「芹沢さん、愛弓と仲良いよね?実は俺も中学が一緒で。芹沢さんが毎朝ここを通るって教えてもらったから待ってたんだ」



そうここへ来た経緯のようなものを早口で説明されて

私は腑に落ちないながらもどうにか頷く。


私のことを待っていた。

そう解釈できる説明だった。


だけど目的が分からず首を傾げてしまう私に

後藤と名乗ったその生徒は少しはにかむように目を伏せてから意を決したように顔を上げた。



「俺、ずっと芹沢さんのこと可愛いと思ってて」

「……え?」

「急にこんなこと言われてびっくりしてるかもしれないけど、よかったら友達からでいいから仲良くなれないかな」



そう真っ直ぐな目をする後藤くんに

驚くあまり胸の奥が微かに波打つように揺れる。



“瑞希明るくていつもにこにこしてて可愛いって陰でモテてるよ。私、この間も友達に紹介してって言われたもん”


いつかの愛弓の言葉が

脳裏に弱くちらつく。


ああ。そうか。

この人のことだったのかな。


私が興味を示さないから

無謀にも夏向さんのこと諦めようとしないから


どうやら愛弓が私の知らないところで勝手に恋のキューピットに名乗り出たらしい。



そうぼんやり納得しつつも

私の中で、もちろん“答え”は決まってる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る