第51話

ももさんにはすでに次の彼氏がいる。

夏向さんの気持ちはきっと届かない。


それでもどこか嬉しそうな夏向さんを見ていると、私は何も言えなくなる。



さっきの倉庫で

ももさんの背中を盗み見ていた夏向さんの横顔を思い出す。



相手に好きな人がいても

諦められない気持ちは、私だってよく知ってる。



だけど。

それでも。


―――こっちを見てよ。夏向さん。



そう小さく祈ってから

私は何かをふるい落とすように首を弱く左右に振る。


夏向さんのことを応援している。

どんな時でも味方でいて、傍で笑っていると約束する。



“好きな人がいるんだ”



初めて告白をしたあの日から

夏向さんの心の中には、私じゃない、別の人がずっといるのを知っていた。


こっちを見てよ。


私がそう思うのと同じように

今の夏向さんも、きっと、他の背中にそう思ってる。



だけど、諦めなければ、


夏向さんは私のことを好きになってくれると信じているし

いつか絶対に振り向かせると決めている。



だから大丈夫。

こんなことでいちいち傷付いたりなんてしない。


大丈夫。



そう言い聞かせるようにして私は顔を上げるとふたりから目を逸らしてコーチの元へと駆けていった。

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