第44話

「珍しい。今日はももがいる」

「……そうみたいですね」



急に飛び出たその名前に

思わずぎくりとして私はつい俯いてしまう。


遠くでじゃれるももさん達を暫く黙って見つめてから、修二さんの瞳が今度は明らかに冷やかしの色を帯びる。



「ももが部活に来るのもだけど、夏向があんな優しい顔してるのもめちゃめちゃ貴重。何の話してるんだろ」



そう楽しそうに2人を見比べながら

修二さんはククッと喉を鳴らして苦しそうに笑う。



「気持ちバレバレだよなあ」



続いた悪気ない修二さんの言葉が

ぐさりと胸に突き刺さって思わず黙り込む。


果敢に否定することも、同じ調子で笑うことも出来ないポンコツな私に構わずあっさり修二さんはどこかへ行ってしまう。



コートの中

モップを握りしめたまま、私は再びこっそり2人の姿を盗み見る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る