第41話

「それって思わせぶりじゃない?」

「え?」

「だって、夏向さんは瑞希のこと好きなわけじゃないのに」



突然ぐさりと突き立てられた言葉に

そんなの分からないよ、といつも調子で言い返したかった言葉がタイミングを失って宙を舞う。


ついぽかんと黙り込んでしまう私に

愛弓は少しだけ何かを考えるような素振りを見せてから、それでも、と何かを決したように顔を上げた。



「だって、夏向さんがいつも朝あの桜の下にいるのは」



そう言いにくそうに、だけどはっきりした口調だった。



「―――」



愛弓が意を決した瞳で、私に“事実”を打ち明ける。

それを聞いた私は思わず目を丸くしてしまう。


だけど何故か私より辛そうな顔をしている愛弓を見ていたら、何だか思わず笑ってしまう。


愛弓はきっと、ずっと前からそのことを知っていて

だけど私の気持ちを考えて黙ってくれていたに違いない。

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