第38話
「っ、」
突然涙をぼたぼた零す私に気付いて、夏向さんがぎょっとしたように目を丸くする。
「は、なんで」
「だって悔しいです。あんなにたくさん頑張って練習してたのに……」
「だからって泣くことないだろ」
「そんなこと言われたってどんな顔すればいいか分からないですーー」
そう唇を尖らせながら、私は必死に頬を伝う涙を手の甲で何度も拭う。
確かにここで私が泣くのは場違いだと思う。
それでも何だか胸が熱くて、勝手に溢れてくる涙を、止めることが出来ない。
無言で泣き続ける私をしばらく眺めていた夏向さんが、ふと手の中のボールをこちらへ差し出してくる。
それに気付いて顔を上げると
目が合って
夏向さんが、何故か、少しだけ優しい瞳で私のことを見ていた。
「笑ってろよ」
静かに呟く夏向さんに
私は表情を失ったまま、静かに顔を上げる。
呆けたままの私に夏向さんの口元が、少しだけ、ほんの少しだけ、笑みを含む。
「次は絶対勝つから」
「え?」
「だから瑞希はいつもみたいに笑ってればいいんだよ。お前が泣いてるとなんか調子狂う」
そう早口で続けたと思えば
夏向さんは手の中のボールを私に押し付けて、さっさと私に背を向ける。
その顔は見えない。
だけど、多分、慣れないことを言って照れていた。
その後ろ姿が何だかやけに愛しくて
私は手の中のボールを両腕でぎゅっと抱きしめてから、顔を上げる。
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