第37話
見慣れた体育館に着く頃にはすっかり日が暮れていて、コートの中には誰も人がいない。
1人で過ごすにはあまりにも広い体育館の中、私は担いできたボールを片付けようと、とぼとぼ倉庫へ向かう。
ちょうどその時。
誰もいないはずの体育館で、不意にドアが開く音がして弾かれたように振り返る。
そこにいた
―――夏向さんの姿に気付いて、私は手にしていたボールを思わずその場で落としてしまった。
「……夏向さん」
「負けちゃったな」
私の手を離れたボールが、てんてん音を立てて夏向さんの足元へ転がる。
それを拾い上げた夏向さんが、ボールを手にしたままこちらへゆっくり近づいてくる。
正直どんな顔をすればいいか分からなかった。
ただ固まってしまう私に、夏向さんが眉を下げて見せる。
この人が、誰よりも練習してきた姿を、傍で毎日見ていた。
絶対に悔しいはずだった。
だけど夏向さんがそれを隠して穏やかな目をするから
―――気付けば何故か私の方が泣き出していた。
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