第36話

「……坂走って来ないといけないんじゃなかった?」

「大丈夫。私が今朝代わりに走っておきましたから」



そう胸を張って笑う私に

夏向さんはふうと小さくため息を吐く。


ジンクスなんてばかばかしい。

そんな風に私の気持ちを踏みにじる可能性だって全然考えてた。


だけど夏向さんは

私の手を振り払ったりせず、そのまま黙ったまま目を閉じた。


その優しさに胸がぎゅっとなって

私も慌ててもう一度目を閉じて、必死に繰り返す。



試合の後も

どうか、この人が、笑ってくれていますように。



そんな風に祈りながら、私は夏向さんの後を続いて試合の会場に向かった。










私の祈りが届いたのかどうかは分からない。

だけど、実力差はやはり大きかったらしく、その日の公式戦で我がチームは負けを喫した。


当然だよね、という諦めムードの中その日は現地解散になり、チームメイト達が散り散りに帰路に着く。


だけど私はどうしてもやるせなくて

特に目的もなく1人で輪を抜け出すと、ボールとスコアボードの入ったカバンを背負ったまま高校を目指した。

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