第35話

数日前、部室に張り出されたトーナメント表。

初戦の相手は県大会の優勝経験のある強豪校だった。


勝てるわけないよ。


誰かがそう呟いているのを聞いたことがある。

多分部員の士気は下がり切っていたし、朝練に誰も顔を出さなかったのはその証拠だとも思う。


今更少し練習をしたくらいで結果が変わらないと思っているのかもしれない。



―――ただ、1人を、除いて。



朝の2人きりの体育館。

私は全力でパス出しに専念しながら、ちらりと顔を上げる。


時間の許す限りジャンプシュートを繰り返す夏向さんは、そんな私には気付かない。


この人は、この人だけは、諦めずに勝ちを信じてただゴールだけを見つめているのだ。



ああ。好きだなあ。

何度もそう自覚する。



実力差があるのなら仕方ない。

神様に祈ったってそれは変わらない。


だけど、せめて、驕らず努力できる尊いこの人に悔い無く力を出し切ってきて欲しい。



そう祈りながら微笑む私を見下ろして

夏向さんは少しだけ何かを考えるように黙ってから微かにその目を細めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る