第20話

「ずっと何かを待ってるんですか?」



そう真っ直ぐ夏向さんの目を見る私に

夏向さんの眉が驚いたようにぴくりと震える。


夏向さんが黙り込むから

2人の間にふといびつな沈黙が訪れる。


さわさわ音を立てて吹き抜ける朝の風に

夏向さんの髪が、何かに迷うような瞳が、微かに揺れた。



「……別に」



そう低く言い残して

私の反応を待たずに夏向さんは背を向けて足早に去っていってしまう。


その背中をなんとなく追いかけぬまま

代わりに私は目の前の桜へ歩み寄ると、手を触れて木を仰ぐ。


大きく息を吸い込むと、葉をすり抜けたその風からは微かに緑の香りがした。



―――明日も明後日も

毎日このまま夏向さんと1番に挨拶が出来ますように



多くは望まない。

今はこれだけでいい。


目を閉じたまま静かに祈って、私は小さく笑うと、体育館へ向かって駆け出す。







“ずっと何かを待ってるんですか?”


その答えは分からない。

だけど。


―――私のこと待ってるんですか?

自惚れてそう聞くことも、この時の私には、何故か出来なかった。

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