第19話

「まあもちろん、好きな人に毎日会えて嬉しいですけどね」

「は?」

「毎朝1番に挨拶出来るなんて役得だなって思ってます。頑張って坂を上がったご褒美っていうか、これもジンクスのお陰ですかね」



そうにこにこしてしまう私に

顔を上げた夏向さんは何故かひくりとその頬を引き攣らせる。


心底呆れたような目をされて

思い至った私は、あ、と小さく声を上げてへらへらしたまま付け足す。


「もちろん告白もしたいですよ。そろそろ付き合ってくれる気になりました?」

「なるわけねぇだろ」



そう吐き捨てるように答えて

夏向さんは馬鹿馬鹿しいという様にエナメルバックを肩にかけると、さっさと私に背中を向けてしまう。


去って行こうとするその背中を

私は気付けば咄嗟に呼び止める。



「夏向さん」



名前を呼ばれて

なんだよ、と面倒臭そうに夏向さんが振り返る。


すっかり呆れ顔の夏向さんを捕まえて

私は無垢な瞳で静かに笑う。



「前から思ってたんですけど、夏向さんはどうしてここに毎朝座ってるんですか?」

「……え?」



唐突な私の質問が予想外だったのか

足を止めた夏向さんは立ち尽くしたまま目を見開く。


固まる夏向さんに向かって

ゆったり笑ったまま、私は小さく首を傾げた。

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