第18話

「大丈夫。私、夜更かしは苦手だけど、早起きは結構得意なんです」



私の邪な気持ちは抜きにしても、きっと私は毎朝体育館へ向かったと思う。


夏向さんの言う通り朝練は自主練だ。

参加は任意だし、顔を出さない部員だってたくさんいる。


その中でも夏向さんは、誰に誇るわけでも褒められるわけでもなく、毎日早起きしてコートの片隅で黙々と練習をしているのだ。



その姿を毎朝見ていて

今ではシンプルにすごいなと心から尊敬している。


今はまだ彼女にはなれないけど

それでもマネージャーとして、この人のことを応援したいと思うのは、多分自然なことだった。



「私、夏向さんのこと大好きですけど、選手としても応援してますから」



そう迷いなく笑う私に

座ったままの夏向さんが顔を上げる。


さあと風が吹いて、桜の新緑がなびく。

私を見上げる夏向さんに落ちた葉の影が、それに合わせて小さく揺れた。



「……変なやつ」



そう気持ちの分かりにくい表情のまま、夏向さんが静かに目を伏せる。


それきり黙り込んでしまう夏向さんに構わず

私はつい勝手に緩んだ口元に手を当てた。

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