第16話

「愛弓、心配してくれてありがと」



そう微笑む私に、愛弓は黙ったまま私の目をじろりと見てくる。


どこか不貞腐れたようなその顔に

私はつい、ふふっと笑みをこぼしてしまう。


自分の“普通”が通用しない私に

それでも根気強く小言を言い続けてくれるのは


愛弓が私のことを心配してくれているからだと流石に分かっている。


―――だけど。


私は口元に笑みを浮かべると

私は笑顔のままであっさりと首を左右に振った。



「私諦めたくないからさ。他の男の子は興味ないや」

「っ、でも」

「大丈夫」



何か言いたげな愛弓を遮って

私は自信満々に頷く。



「いつか絶対夏向さんは私のこと好きになってくれるって信じてるから」



そう不敵に笑う私に

困ったように弱く笑う愛弓は、諦めたように小さく肩をすくめた。



「……ほんとタフだね」



そう呟いたきり黙る愛弓に

私もにっこり笑うだけで、それ以上なにも言わない。


ちょうど同じタイミングで始業を知らせるチャイムがなり、次の授業の英語の先生が教室へ入ってくる。


授業を受けようと前を向き直った愛弓に続いて、私も机の中から慌てて教科書とノートを取り出した。

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