第14話

「それでね、夏向さんが迷惑だとか言うの。照れてて可愛かったな」



ざわついた休み時間の教室。

今朝のやりとりをそう振り返る私は思わずにやけてしまう。


組んだ両手を頬に当てうっとりと回想する私に、前の席に座る愛弓はこちらに身体を向けたまま驚いたように目を丸くした。



「迷惑なんて言われたの? それ照れてるとかじゃなくない?」

「そうかなあ。でもさ夏向さん他の人にそんなこと言わないし、私だけ特別っていうか」

「いやいやいやボジティブすぎるでしょ」



その指摘に思わずきょとんとする私に、愛弓は驚いたように首をぶんぶん左右に振る。

それから愛弓はすっかり呆れ顔のまま、大きくため息を吐いて肩をすくめて見せる。



「瑞希のその性格羨ましい。どう考えても脈なしだし、好きな人にそんなこと言われたら普通傷つくよ」



そう諭すような口調で言われて

私は思わず黙ったまま首を傾げてしまう。


自分の“普通”の物差しが

私へ当てても測れないことをどうやらすでに理解しているらしい。



「……なんでもない」



今では自分の言葉が私に刺さらないことにすっかり慣れている様子で愛弓はあっさり引き下がる。


言っても無駄だ、と諦めの色が滲む友人の瞳に、私は心の中でこっそりごめんと呟いた。

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