第13話

「別にマネージャーはわざわざ早起きしてまで朝練なんて来なくてもいいだろ」

「失礼な。やることくらいありますよ」

「それぞれ個人練するだけなのに? いてもいなくても同じだから明日から休めば」

「そんなこと言って、可愛い後輩がいた方がやる気になるでしょう」



私を撒こうとしてるのかというくらい早歩きの夏向さんに

ふるい落とされるつもりもなく、私は当然のように小走りでついていく。


めげずに軽口を叩いた私を、競歩のスピードのまま、夏向さんがじろりと横目で睨んでくる。



「五月蝿くて迷惑。主に今」

「またまた。照れなくてもいいのに」



そうキツめに釘を刺されても屈しない鋼の心に

着いてくるな、と不機嫌そうに吐き捨てて、夏向さんはそのまま私を置き去りにして体育館へ向かってしまう。


思わず足を止めてみるみるうちに小さくなっていくその背中をぼんやり眺めながら

1人残された私は笑顔のまま少しだけ目を伏せる。



「……今日も失恋、か」



ぽつりと呟いた声を

春の風がふわりと巻き上げる。


ふと空を見上げると空は私を冷やかすくらいどこまでも綺麗に晴れていて

それをぼんやり眺めてから、私は大きく深呼吸をして、見えなくなりそうな夏向さんの背中を再び全速力で追いかけた。

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