第8話

後で知った事だけど

この校舎裏の桜の木の先の道は体育館へ続いている。


正門からでももちろん辿り着けるけど

この校舎裏の坂を経由するルートは体育館へ向かうための近道らしかった。



朝練へ毎朝顔を出す夏向さんが

体育館近くの桜の木の下にいたことに特別な意味なんてなかったかもしれない。



だけど、偶然でもなんでもよかった。


大好きな夏向さんにもう一度会うことが出来た。

これはきっと、頑張って坂を駆け上がった私に神様がくれたご褒美だ。



だとしたら

この想いが通じるまで


毎日、何度でも、私はこの坂を走る。



だからどうか

―――いつか私の気持ちが届きますように。



そう真っ直ぐな目で祈る私に

夏向さんは驚いたように微かにその瞳を揺らすだけで、何も言わなかった。








「―――瑞希」



そんな回想をしていた私は

不意に名前を呼ばれて、思わずはっとする。


呼び戻されるままぼんやり顔を上げると、すでに私に背を向けていた夏向さんが肩越しに私を小さく振り返る。



「朝練遅刻するぞ」



そう言い捨てて、夏向さんはさっさと私に背を向けて先に体育館へ歩いて行ってしまう。

だけど“あること”に気付いた私は、その場に置き去りにされた後、思わずぴくりと肩を揺らしてしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る