第44話

そんな俺の言葉に栗山は目を瞬かせると、自問自答するように顎に手を当て考え込む。


けどそれも少しの事で、すぐ俺へ顔を向けると苦笑混じりで口を開き…





「月岡を大切だとは思うが、アイツと結ばれたいという気持ちはないんだ。


強いて言えば『恋』ではなくなってしまったがアイツに対する『愛』は残った、という感じだろうか…。」




自分で言ってて照れたのか。


少し頬染めながら、それを誤魔化すようにお茶で喉を潤し出した若武者。



それを見ながら俺は食べ終えた弁当を机に置き、紙パック珈琲のストロー部分をかじかじ。


口の中で栗山の言葉を反芻する。





(恋愛の『恋』はなくなって『愛』が残るって、そんな事ってあるんだな…。)




俺は単純に誰かを好きになる気持ちが『恋』なんだって思ってた。



家族が好きとか友達が好きとかと同じで、『恋』っていう好きの種類があるんだって。


家族愛とか友愛とかと同じで、恋愛っていう『愛』の種類があるんだって。



でもそんな簡単に種類分けできるものじゃないのかもしれない。


俺が考えている以上にもっと複雑なものなのかもしれない。



恋も、愛も…。




……




あー…。


何か頭痛くなってきた。





「やっぱ難しいなぁ、恋愛って…。」




最近意識するようになったその感情は、やっぱり俺には分からない事が多くて。


ポソリと無意識にそんな言葉を零していた。



けど俺は次の瞬間、栗山が真ん丸に目を見開いてるのが見えてハッと我に返ったのだった。





「ごっごめん、今の忘れて。」




自分で言っておきながらこっ恥ずかしくなって、顔を赤くしながらブンブン両手を振る俺。



ああああ!

もう何言ってんだよ俺!

ダチの前で何口走っちまってんだよ!

つか今日不用意な発言多すぎ!


分からないって思いながら『難しい』とか、何一丁前に分かったような事言ってんだよ!


文化祭の真っ只中だってのに、頭ん中で恋愛談義してる場合かっての!

つーか今はんな事より、美里と栗山の事を聞かなきゃなのにいい!





「…そんなに難しい事じゃないと思うぞ?」



「え?」




そんな風に俺が心ん中で自分の言動を猛烈反省していれば、つと栗山が口を開いた。


クリリンはゴホンと小さく咳払いすると、少しまごつきながらも言葉を続け…





「そうだな、自分にとって大切な誰かの幸せを願う気持ちが『愛』だとすれば…」



「だ、だとすれば?」




思わず心持ち前のめりに。


俺はジッと言葉の続きを待ったのだった。

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