第40話
が、その時…
「すまないが、今は誰とも付き合う気はないんだ。」
(……ん?)
ピタリと。
聞こえてきた声に俺の思考が止まる。
え、この声って…
「おっお願い、お試しでもいいから…!私【牡丹】の頃からずっと栗山君の事好きだったの、だから…!」
「悪いが…」
必死に言い縋る女の子。
その言葉の中にあった名前に確信を覚え、再び物陰からこっそりと顔を覗かせれば。
そこに居たのは俺と同じ真っ白な軍服を身に纏った、若武者な男前書記の栗山で。
うお、相手の男クリリンだったのか。
気付かなんだ。
あんま見ちゃ悪いって思ってすぐ目ぇ逸らしたから、男の姿まで確認する余裕なかったや。
気付かなんだ。
(…モテモテだなクリリンよ。)
なんてのんきな事を思いつつ、ポリポリと頬を掻く俺。
取りあえず、告白が終わって二人がどっか行くまで待とうって思ってたんだけど。
見知らぬ他人ならまだしもダチの告白場面を覗き見るのは、さすがに悪い気がして。
こうなりゃもう違う道から行くしかねぇかと、俺は来た道を戻ろうとした。
んだけど…
「や、やっぱり月岡さんのせいなの…?」
ピタリと。
涙声の女の子が零した言葉に、踏み出した俺の足が止まる。
思わず振り返れば、女の子が涙目で栗山を見上げていて…
「みっみんな言ってるわ…!
栗山君が告白してくる子全員を断ってるのは、月岡さんのせいだって…!あの子の事がまだ好きなせいだって!」
「……」
栗山が美里の事を好きだっつー前提で話が進んでるのはさておき。
他からも告白されてんのかやっぱモテモテだなクリリン、なんて感想もさておき。
正直気になる内容なだけに、いけない事だと分かっちゃいるものの俺の足はなかなか動いてはくれなくて。
そのまま俺が立ち去ろうか迷ってる間にも、女の子の声はどんどんヒートアップしていき…
「でもあの子は貴方の気持ちを裏切ったのよ!?貴方を捨てて他の男に乗り換えた!
しかも相手は王族、お金目当ての結婚だってみんな言ってるわ!
あっあんな成金上がりの最低な女、栗山君には相応しくな…!」
「――止めろ。」
女の子の暴走に制止をかけたのは、尖った氷のような冷たい声。
それに女の子が怯えたように、ヒュッと息を飲む音が聞こえてきた。
その声の持ち主は言わずもがな。
優しげとは言えないまでも真面目で、恐い雰囲気とは程遠い印象の爽やか青年栗山で…。
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