月岡家

第36話

『周りがあくせく奔走した所で当の本人が何もしねぇんじゃ、あの書記もテメェの兄貴達とやらも報われねぇな。』





分かってます、本当は。


分かってるんです、自分でも…。








美里 side




鈴蘭祭、一日目。



正門から白亜の城へと続く道の両脇に露店が連なり、保護者や親族が園内に来場する中。


校舎内にある模擬店にも客足が伸び、お昼を越える頃には多くの来場客で溢れかえっていました。



けれど校舎の双塔は関係者以外立ち入り禁止となっていて、外の賑やかさとは反対にシンと静まり返っていた。



そんな《赤の塔》の一室にて。


菊花模様の振袖を着た私は椅子に腰掛けながら、長テーブルを挟んで自身の婚約者である男性と向かい合っていました。





「この度はわざわざ日本にお越し頂き、誠に恐縮の限りです。


貴方様のようなご立派な殿方と縁を結べるなんて、いやはや娘は大変な果報者です。」



「本日は御日柄もよく、式の日取りを決めるには最良かと…」




私の隣席では私の両親が交互に口を開き、シャリーフ王子の機嫌を伺っていました。


反対隣には私の兄二人が座っていて、黙々と料理を口に運んでいました。



月岡家一同が出揃った昼食会。


テーブルの上には豪勢な昼食が並んでいたけれど、私はなかなか箸を進める事ができなかった。



そっと視線を前へと向ければ、正面に座るシャリーフ王子とバチリと目が合ってしまって…





『…食べないのか?』



「召し上がらないのですか、との事です。」




シャリーフ王子の後ろに控えている従者の方が、彼の言葉を通訳する。



その台詞に両親と兄二人の目が自分に向けられるのが分かって、私は慌てて料理を少しだけ口に運んだ。


けれど私の舌は味を感じる事なく、食べた物がただ喉元を通り過ぎていくのを感じました。



と…





「美里様には来月にでもシャリーフ様の学園にお越し頂き、式も年内に王宮で盛大に執り行いたいとの事です。」



「まあ素敵。」




通訳の方の言葉に隣に座る母から感嘆の声が上がる。


けれど私はその一方で、一人身体を強ばらせていました。



何か言おうと口を開くも、喉の奥が詰まってなかなか言葉がでてこなかった。



と、その時…





「待って下さい、いくらなんでも話が急過ぎます。」



「そうです、妹はまだ十六にもなっていない。婚約ならまだしも結婚だなんて、時期尚早です。」




兄二人がシャリーフ王子の提案に異を唱えたのでした。

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