第35話

「こうしてマコっちゃんと二人きりって、何か久しぶりだね〜。」



「ん?…ああ、そう言われてみりゃそうだな。」




活気に満ちた鈴蘭生の呼び込み声や、軽快な音楽が流れる中。


鼻歌交じりに上機嫌で隣を歩くトキにそう言われ、俺はここ二ヶ月間の出来事を振り返った。



先月は選挙があって、今月に入ってからはこの文化祭の準備で大忙しで。


昼飯や晩飯は一緒に食べてたけど、美里と栗山やノエルちゃんも一緒の事が多かったし。



確かに二人きりってのは久しぶりかも。


一学期はよくしてたお泊まり会も随分ご無沙汰だしなー。





「ねぇねぇマコっちゃん、俺マコっちゃんにお願いがあるんだけど〜。」



「?何だ?」



「明日の後夜祭のダンス、俺と一緒に踊ってほしいな〜。」




にこにこ笑顔のフラミンゴの口から出た後夜祭っつー言葉に、俺はこてんと首を傾げる。


けどすぐに二日目の夜、鈴蘭生だけで行う『仮面舞踏会』の事を言ってるんだと分かった。



保護者や来場客を帰した後、スズラン館で行われる打ち上げ的イベントらしい。


名前の通り正装して仮面つけて踊る大トリ的イベントらしい。



確か最初に生徒会と風紀の役員がペアになって、全鈴蘭生の前でダンスを披露するとか何とか聞いたような。



けど…





「俺、一応今『男』なんだけど。」



「今年は生徒会も風紀も男子より女子役員の方が少ないから〜、男同士のペアがいても問題ないよ〜。」




ねっお願い〜っと言いながら俺の顔を覗き込むトキ。


ふわふわのピンク頭とウサ耳がマッチして何とも可愛らしい。

廊下を行き交う鈴蘭生や奥様方のトキを見る目が何とも微笑ましい。



つかコイツまた少し背ぇデカくなった?

俺より目線が上なのに上目遣いでお願いしてくるとか、器用すぎんだろお前。


いやまぁ可愛いけどさー。





「…俺、ダンス下手だから足踏んじゃうかもだぜ?」



「!」




苦笑混じりの遠回しな承諾にトキの顔がぱああ!っと明るくなる。


特に断る理由もないし、俺もペアになるなら気心知れたダチの方がいいし。ね。





「えへへ〜、約束だよ〜。」




そう言って嬉しそうに指切りげんまんをするフラミンゴ。


ただ小指は離さずなぜか繋いだままに。

ある意味手を繋ぐよりラブラブ度が高い。



ただでさえ目立つ格好での小指繋ぎに、周りからの好奇な目がちょっぴり気になったけど。


ルンルンと楽しげに隣を歩くトキに、まぁいいかっと笑みを零した俺だったり。




まだ文化祭を楽しむ余裕があった、そんな一日目の午前中。

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