舞い降りた鷹<サクル>

第23話

カメラ side





――ゴオオォォ…!




山頂にある学園から車で一時間ほど離れた所にある、【鈴蘭】所有の飛行場。


そこに今、一機のプライベートジェットが着陸した。



扉が開き、タラップに一人の青年が降り立つ。


青年の眼下には黒いスーツ姿の二十人近いSPとリムジンが一台、それを挟む形で前後に数台の警護車が連なっていた。



アラブの民族衣装カンドゥーラを身に纏った青年は、そのリムジンの前に立つ人物を認めると階段に足を下ろした。


頭に被った白のグトラが翻り、一陣の異国の風が舞い込む。





――ザッ…




『よおシャリーフ、長旅ご苦労だったな。』



『お前が出迎えるなんて珍しいな、隆義。』




濃い茶髪の男は掛けていたサングラスを外し、流暢なアラビア語で青年に声を掛けた。


大財閥『三鷹』の御曹司である男、三鷹 隆義と青年は固い握手を交わした。



褐色の肌に漆黒の髪と瞳を持つ青年は、超絶美形と謳われる隆義に引けを取らぬ美麗な顔立ちであった。


二人並んだ姿はまるで一枚の絵のようだ。





青年の名は、



シャリーフ・イブン・サアド・アル=アシュメニア。




中東の小国――アシュメニア王国の第二王子であり、月岡 美里の婚約者である。



実母は国の第三夫人であるが生家の階級が低い為、王位継承権こそないものの。


頭の回転の速さと外交能力の高さから、父親である現国王も一目置く存在であった。





『お前にとっちゃ久々の日本だろ、観光にでも行くかぁ?』



『いや、このまま学園に向かってくれ。お前の事だ、聡一郎に黙って抜け出して来たのだろう?』




本来なら不敬罪になりかねないフランクな会話も、旧知の仲である二人の間に遠慮はない。


それはシャリーフが一国の王族であろうとも物怖じせず、寧ろ対等に渡り合う隆義の天質の為せる業と言えよう。



今頃隆義の不在に気付き黒い笑みを浮かべているであろうもう一人の旧友を思い、シャリーフは小さく口角を上げたのだった。





『――…それに今回の目的は仕事でも観光でも、ましてや今更学業に専念する為でもない。』




二人を乗せたリムジンが動き出す。


広い車内に控えていた王子付きの側近が、シャンパンを二つのグラスに注いだ。



黄金の酒を仰いだアシュメニアの第二王子は、ただ静かに言葉を紡いだ。






『私の花嫁を迎えに来たのだ。』





同じくグラスを傾けていた隆義は、その台詞に愉しげにクツクツと笑った。


まるでこれから起こる全ての事を、予見しているかのように――…。

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