第22話

ノエルちゃんは徐(オモムロ)に立ち上がると、ゴキリと首を鳴らした。


そのまま屋上の出口に足を向けた大型犬は、去り際に再び美里にチラリと目を向け…





「周りがあくせく奔走した所で当の本人が何もしねぇんじゃ、あの書記もテメェの兄貴達とやらも報われねぇな。」



「…っ!」




無表情に、淡々と。


ただ思った事をそのまま口にしたって感じのノエルちゃんの言葉に、美里はヒュッと息を詰めた。



ちょ、ノエルちゃんマジでどうしたのさ。


普段から愛想がいいとは言えないけど、なんか当たりキツくね?


別に怒ってるわけでも不機嫌なわけでもないみたいだけど、なんか言い方がキツくね?



寝ようとしたのに俺たちの会話が五月蝿くて何気にムカついてた、とか?


それとも会話ん中に会長の名前が出てきたから無条件にムカついた、とか?



…どっちもありえないと言い切れないのはなぜでしょう。





「…分かってます、分かってるんです…自分でも。」




強面な同室者が去った屋上。


ポソリと哀しげに呟いたのは言わずもがな、大型犬にキツい喝を入れられたえんじぇるで。



無意識に再びその頭を撫でようとして、俺は寸前で伸ばした手を止めた。


言葉は違えど俺もノエルちゃんと同じ事を言おうと思ってただけに、美里をただ慰める事はできなかった。





「一番大事なのは美里自身の気持ちだ。


考えなきゃいけねぇのは『どうしたらいいか』じゃなくて『自分がどうしたいか』、だぞ?」



「…はい、」




俺がそう言ったとこで、昼休みの終了を知らせるチャイムが屋上に鳴り響いたのだった。











親の望む通りに結婚するのが悪い事だとは言わない。


留学するのも一つの道なのかもしれない。



けどそれは美里自身が選ばなきゃ意味のない事だって、俺は思うんだ。



自分の主張を貫き通したからっつって、全てがまかり通るだなんて甘い事は言わないけど。


自分じゃどうにもならない不条理な事が、たくさんあるのかもしれないけど。



だからっつって自分の気持ちを『無いもの』にしないでほしい。


自分よりも他人を優先させてしまう節(フシ)のある美里だからこそ、自分の気持ちを大切にしてほしいって思う。



それまで俺は


『結婚留学絶対反対!えんじぇるとお別れなんて寂し過ぎる!』


っつーワガママちゃんな主張を封印しておこうと思います。はい。



にしても…





(美里の婚約者で会長のビジネスパートナーで、王族でSクラスの留学生…か。)




一体どんな奴なんだろうね。

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